友達が多く彼氏や彼女もいて現実の生活が充実している「リア充」、ネットゲームやSNSでの友達やコミュニケーションが活発な「ネト充」はネットスラングだったが、いまではネットの外でも伝わる言葉になった。最近では、家(ウチ)の中での生活を充実させる「ウチ充」が人々の生活を変えつつある。ウチ充を担うものとしてはスマートスピーカーなどの最新機器に目を奪われがちだが、嗜好品のコーヒーやお酒などもウチ充アイテムとして人気を集めている。
「コーヒーのある生活はライフスタイルのひとつになったのだと思います」と話すのは、UCC上島珈琲株式会社・グルメコーヒー事業部の緒方恵介さん。
「少し前まで、コーヒーは飲み物のひとつとして選択されるのが普通でした。ところが最近では、雑貨やインテリアを選ぶように、コーヒーを淹れるシーンを生活に取り入れることが広がっているのを感じます。コーヒーは淹れるときの香りや豆の状態など、プロセスも楽しいものなのですが、その単なる飲み物としてだけではない部分が、自分の時間を過ごすツールとして選択肢のひとつになったと思います」
コーヒーを淹れることにこだわるときくと、60粒の豆で淹れると決めていた大作曲家・ベートーベンのような、神経質な姿を想像するかもしれない。しかし、最近Instagramでも人気の「おうちカフェ」を実践してくつろいでいる人たちは、少しだけ手間をかけた、ほどほどのこだわりで楽しむスタイルが主流だ。そして「#うちカフェ」「#おうちカフェ」など、いくつかのハッシュタグつきで投稿されている写真の数々は、女性によるものが多い。
SNSでの写真からみえる「おうちカフェ」は、ごく小規模なアレンジで実現可能な空間だ。部屋やキッチンの一角をカフェ風にアレンジし、インテリアや家具と合うデザイン性の高いコーヒー器具や食器をそろえる。そして、専門店で買ったコーヒーを自宅で淹れてくつろいでいる。
この変化の背景には、2013年にコンビニ最大手のセブン-イレブンが挽き立ての豆で淹れた低価格のレギュラーコーヒーの提供を始めた影響が強い。
「コンビニのコーヒーをきっかけにして、これまでレギュラーコーヒーに親しむ機会があまりなかった人が愛好者になってくれています。最近では、コーヒー専門店でコーヒーを買われる方も増えています。コーヒーにもワインのように風味や香り、酸味や甘いものなど多様性があるのですが、好みや気分にあわせた楽しみ方が広まっているのだと思います」(UCC上島珈琲株式会社 COFEE ACADEMY講師・中平尚己さん)
全日本コーヒー協会が2年に一度実施している調査によれば、一人一週間当たりのコーヒー杯数は、日本人がもっとも親しんできたインスタントは4.46(2012年)から3.95(2016年)と減少傾向にあるのに対し、レギュラーコーヒーは3.20から3.89へと増加している。このようにレギュラーコーヒーに親しむ人が増えるにつれ、コーヒー専門店での豆購入も増加している。