家庭用コーヒーの年間購入金額をみると、2012年と比較してスーパーマーケットも109%伸びているが、コーヒー専門店は127%もの伸長を示している(SICデータより)。これらの変化は、ブルーマウンテンやコピルアクなどの高価なものに人気が集中しているのではなく、専門店ブレンドや、絶滅しかけた品種を復活させUCC上島珈琲が年に一度だけ限定販売するブルボンポワントゥのように、少し高くても普通ではない特別なものへの関心が高いことがある。普通と少し違うことは、SNSでのアピールポイントにも繋がりやすい。
コーヒーと同じように、自宅でオシャレにくつろぐ様子としてお酒もよく選ばれている。こちらもSNSと親和性が高い女性からの反応が大きい。コーヒーのように飲む場所やその形態についての調査がないので分からないが、と前置きしつつ「たぶん、自宅でお酒を飲んでいる女性は増えていますね」と酒文化研究所の狩野卓也さんはいう。
「クラフトビールや日本酒のイベントなどがあると、女性客の増加が目立ちます。ちょっと変わったデザインのボトルやグラスがあると人気ですね。彼女たちは、さかんにスマホで写真を撮っていますよ。お酒を飲む目的には、コミュニケーションの手段やリラックス、酔いを楽しむなどがあります。いま、お酒を飲む女性たちの楽しみ方は、それらとも少し違う部分があるように思います」
狩野さんによれば、かつて女性は人前でお酒を飲むことすらためらわれる風潮が強かったが、男女雇用機会均等法の施行により、男性並みに仕事をするならお酒も同じように飲む女性が出現した。その後バブル期にグルメブームが起きると、食への好奇心が強い女性たちによる、美味しい食事は美味しいお酒とともに味わいたいというムードが広がった。ワインや吟醸酒、カクテルなど様々な姿をしたお酒を楽しむ習慣が広まり、今ではお酒が好きだと女性が公言しても、奇異な目で見られることはない。
女性とお酒の組み合わせが当たり前になったいま、少し違う楽しみ方をしているのかなと思わせられる場面がたびたびあると狩野さんはいう。
「4、5年前から、スマホで写真を撮ってネットにアップするということが、お酒を飲むときの楽しみのひとつに加わっていますね。女性は男性よりもコミュニケーションが好きで、ちょっといいことをした、雰囲気がよい時間を過ごしたということを、たとえそのときは一人きりでも誰かに伝えたい。SNSによってその場ができて、自己実現のアイテムのひとつに酒が選ばれていると思います。お酒そのものを伝えるのが目的なら、写真を加工する必要はないと思うのですが、たいていスマホで撮った写真を加工してから公開していますよね」
自宅でひとりきりの静かな時間を過ごす満足を、誰かに伝える手段がかつてはなかった。ところが、SNSの普及によって、とかく否定的に捉えられがちだった自宅にいる生活が「ウチ充」というポジティブな意味を獲得した。新しい意味を得たことで、そこに求められるアイテムであるコーヒーやお酒も、単なる飲み物ではない存在感を放つようになったらしい。ウチ充は、次はどんな身の回りのものの意味を変えてゆくのだろうか。