ライフ

「西郷どん」の薩摩藩が江戸で繰り返したテロのえげつなさ

西郷の薩摩藩は手段を選ばず幕府を追い詰めていた

 NHK大河ドラマ『西郷どん』では、主人公の西郷隆盛がいよいよ「革命家」として目覚め、京都を舞台に活躍していく姿が描かれようとしている。その後の歴史は徳川幕府の終焉と明治新政府の誕生へと進んでいくが、実はその過程には西郷隆盛の属する「薩摩藩」の謀略があった。歴史作家で『ざんねんな日本史』著者の島崎晋氏が解説する。

 * * *
 慶応三年(一八六七)一〇月一四日の大政奉還に続き、同月二四日には徳川慶喜が征夷大将軍の辞表を提出。慶喜としては、徳川家が最大の大名であることに変わりはなく、今後の政治も徳川家主導のもと進められるものと考えていた。

 しかし、薩摩藩と長州藩は完全なる倒幕の意志を曲げず、同年一二月九日午後四時頃に王政復古の大号令を発したのに続いて、午後六時頃に開始された小御所会議では、徳川慶喜に対して辞官納地、すなわちすべての官位と領地の返還を要求することが決せられた。

 これを受けて慶喜は不測の事態が起きるのを避けるために京の二条城から大坂城へと居を移したうえ、土佐の山内容堂や越前の松平春嶽など穏健派の力を借りて、辞官納地要求の骨抜きと、新政府への慶喜の参加を承認させることに成功した。

 徳川慶喜もしぶといが、薩摩藩の執念はそれを上まわり、徳川側に傾きかけた流れを変えるべく、挑発行為を繰り返すことで、徳川のほうから戦いを仕掛けさせることにした。決戦の場は京周辺になるだろうが、挑発の場はそこである必要はなく、徳川家の心臓部でありながら、報告を待つしかなく、苛立ちを募らせていた江戸こそが相応しいと考えた。

 そうと決まれば、薩摩藩は手段を選ばず、討幕派の浪士たちをたきつけ、無差別の強盗や放火を繰り返させた。旧幕府との親密度に関係なく、どこの商家もほぼ例外なく「勤王倒幕」を掲げる押し込み強盗に襲われ、場所を選ばない放火により長屋の住民たちまで焼け出された。若い娘が白昼堂々乱暴される事件も相次ぐなど、江戸中がテロの恐怖に覆われる生き地獄と化していった。放火によるのかは不明ながら、江戸城内でも二の丸が全焼する被害を被っており、これで下手人を一人も逮捕できないとあっては、徳川の面目丸つぶれであった。

 旧幕府側も無為無策でいたわけではなく、追い詰められた不逞浪士たちが三田の薩摩藩邸に逃げ込むのを何度も確認していた。けれども、江戸時代の藩邸は現在で言う大使館や領事館にあたり、幕府の警察権が及ばない聖域であった。そこで旧幕府側は手順を踏み、丁重に不逞浪士たちの引き渡しを求めたが、薩摩藩の留守居役は言を左右にするばかりであった。

 江戸城の留守居役たちは我慢の限界にきていた。勘定奉行の小栗上野介までが強硬論に傾くに及び、一度は強行突入でまとまりかけるが、いまだ煮え切らない者も多数いたことから、結局は大坂に急使を送り、慶喜の指示を待つこととなった。

 かくして旧幕閣たちはいったん矛を収めたが、薩摩藩には手を緩める気はなく、同年一二月二三日、庄内藩の屯所に対して発砲を行なった。明らかな挑発行為である。これで江戸城留守居役たちも腹を決めた。

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト