埼玉県に住む木村恵子さん(52才・仮名)は、両手のしびれに悩んでいた。
「包丁を持つ手がピリピリする感覚があって…。動かなくなるほどひどくはないんですが、病院に行ったら『首の頸椎の神経が圧迫されている』と診断されました。手術を勧められましたが、なんだか怖いし、時間もお金もかかるから、受けるかどうか迷っているところです」
体にメスを入れる外科手術は、病気の原因を直接取り除ける効果的な治療方法だ。しかし、医師や病院にとってみれば、手術もまた1つのビジネスである。
超高齢化社会の中、医療は経済的に成長している分野かと思いきや、実は病院の倒産件数は右肩上がりで増えている。帝国データバンクの集計では、2014年の医療機関の休廃業・解散件数は347件にのぼる。都会の大病院であっても、赤字経営のところが少なくないのだ。
「苦境の中、手術は医師にとって実入りのいい収入源でもあり、必要性の判断を狂わせることがあります」と指摘するのは、医療経済ジャーナリストの室井一辰さん。
「手術の件数を重ねることで病院は確実に儲かるからです。薬を処方するだけだったり、自然治癒力に任せて経過観察したりするだけでは、実際にはお金になりません。だから医師の中には、あえて“デメリット”をぼかして手術を勧める人もいます。効果とリスクを、きちんと説明してくれる医師でないと、患者は後悔することになりかねません。患者側も、手術に伴う具体的なリスクを知っておくことで、医師のいうなりにならず、選択肢を広げることができます」
さらに言えば、新薬の開発も日進月歩だ。大げさな手術をすることなく、薬物治療だけで治る病気も増えた。すべての医師が新薬や新療法について詳しいわけではないので、旧来の治療である手術を勧めてしまう医師も当然いる。患者だからといってすべてを医師に委ねるのではなく、自ら学んで「賢い患者」にならなければ、自らの体を守ることはできない。
◆虫垂炎(盲腸炎)
治療法が手術一択だったのは今や昔。現在では外科手術はほとんどの場合で不要になっていると話すのは、秋津医院院長の秋津壽男先生だ。
「以前は“放置すると腹膜炎になって死ぬ”といわれた病気でしたが、現在は抗生剤が飛躍的な進化を遂げ、ほとんどの場合、のみ薬や点滴だけで完治するようになり、大きな傷をつけてまで手術する必要はなくなりました。
そのうえ、要らないものだと考えられていた盲腸は“免疫のかなめ”であることが最近の研究で判明しました。手術で盲腸を取った人の方が、そうでない人よりも大腸がんになるリスクが高まるというデータもあります」
◆扁桃炎
扁桃が腫れやすく、そこから風邪をひいてしまうことが多い人は、扁桃の切除手術を勧められることがある。
「しかし、近年の研究で、扁桃は体に抵抗力をつけ、細菌の侵入を防ぐ役割があることがわかってきています。盲腸と同じで、取ると体力や免疫力が落ちる患者さんもいる。また、悪質なものでない限り、今ではのみ薬で治るようになっているので、切らない選択も視野に入れてください」(秋津先生)
※女性セブン2018年11月1日号