映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、女優・佐久間良子が、映画と舞台の違い、十年以上にわたって再演を重ねた舞台『唐人お吉』での思い出について語った言葉をお届けする。
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一九六三年の映画『五番町夕霧楼』で役者としての評価を高めた佐久間良子は、その翌年、同じく水上勉原作の『越後つついし親不知』(今井正監督)に主演した。
「今井監督は容赦ない方で、もう大変でした。振り返ってみても、肉体的にあんなにつらい撮影は他にありません。特に大変だったのが最後に田んぼで殺される場面です。何回も撮り直しで一週間かかったの。
撮影は人に見られないよう新潟の糸魚川の山中で行われたのですが、雪深い所で。小沢昭一さんの演じる夫に田んぼに頭をつけられる場面でした。私は田舎娘のズングリした感じを出すために綿入れの上に絣を着ていたのですが、田んぼの水が綿に染みると重くて立ち上がれないのです。しかも山沿いなのですぐお天気が曇って天気待ちになるので、泥だらけのまま待たされました。何回演じても『駄目駄目、違う』と言われて、それが一週間。過酷でした」
その後、佐久間はそれまで所属していた東映を離れ、六九年には東宝の菊田一夫が演出する三島由紀夫原作『春の雪』で舞台に初出演している。