爆買いが代名詞となり、グローバルに考えても、中国人の存在感は増した。だが、彼らの心の奥底には複雑な感情も渦巻いているようだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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いまや経済大国として世界経済をけん引する中国は、国際社会における存在感も高めている。だが、その反面、中国人のなかには外国に対するちょっとした気後れがなくならないようだ。
気後れという表現がしっくりこなければ、半植民地状態に陥った暗黒の近代史のなかで失ったプライドがいまだ回復しきれないある種のコンプレックス、と言い換えた方が正確だろうか。いずれにせよ彼らは、自分たちが世界のなかで不当な扱いを受けているという被害者意識を引きずっている。
日本に観光客が押しかけた当初、列に並ばない人やスーパーで精算前の食べ物を口にする人を注意すると、逆に烈火の勢いで逆切れしたのは、そのせいだ。こうしたコンプレックスは意外に根深い。
そう感じさせられたのは、3月末に『中国新聞』ウェブ版が報じた記事だ。タイトルは、〈中国の観光客がスイスで盗難被害 50件の被害届に対して事件解決に至ったケースはゼロ〉である。
情報源は、現地の大使館。過去3か月の間にどう大使館が受理した盗難被害のケースは50件。そしてタイトルにあるように、一件も犯人は捕まっていないというのだ。言外に「スイス警察、やる気があるのか!」と怒っていることが伝わってくる。
それにしてもわずか3か月で50件の窃盗被害とは、スイスもひどい国ではないか。しかも、現地大使館は、中国国民に対してこれまで3回(昨年9月、昨年12月、今年3月)も警告を発しているのだ。
中国国内で外国人が被害に遭えば、国内の問題を後回しにしてでも優先的に対応することを中国人はよく知っているだけに不満は募るというわけだ。金を持っているので表面的には歓迎するが、心の底では軽蔑している──。そんな本音がこんなところから見えるということか。