父の急死認知症の母(84才)を支える立場となった『女性セブン』のN記者(55才・女性)が、介護の日々を綴る。今回のテーマは「夏の日傘」だ。
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子供の頃、夏の強い日差しが足元に映し出す、母の日傘のレースの影に目を見張った。今もなお、まぶたに焼きついている夏の思い出だ。あれからウン十年、今や夏は常に臨戦態勢。風情がないよね…と嘆きつつ、「熱中症にならないように」が合言葉だ。
◆子供心にうっとりした涼し気な日傘の風情
私が子供の頃、夏になると押し入れから扇風機と浴衣、母の日傘を出した。
生成りの麻の生地でレースの刺しゅうがしてあり、高価なものではないと思うが、確か薄紙かなにかに包んでしまわれていて、特別感があった。
子供も大人も日焼けするのが当たり前だった当時、雨でもないのに傘を差すというのが、どうも不思議でならなかったのだが、ある真夏の日、母と2人で出掛けた先で、日傘のレースの影が白いコンクリートにくっきり映し出されたのを見て、思わず心が躍った。ギラギラした夏の太陽を、鮮烈に感じたのだ。
そして見上げると母の顔にもレースの影が。照り返しのせいか顔が妙に白く、口紅が赤く、レースの影とともに強いコントラストを描いていた。
「日傘って涼しいのよ。Nちゃんも大人になったら日傘を差しなさいね」と母が言った。
日傘を差すと涼しいの…? それがまた驚きで、あの日傘の影は、私の中の“夏”を象徴するシーンになった。
◆今年の夏も熱中症対策は帽子プラス日傘
あれから日傘は何度か買い替えたが、今も変わらず母の定番アイテム。やはり生成り地で刺しゅうがある。5年前に独居を始めたサ高住の部屋にも忘れずに持ってきた。
母は認知症のわりに生活意欲を維持していて、前向きで明るい。でもさすがに症状が出始めてから10年近く経つと、娘の目から見ても認知機能の衰えを感じる。
寒暖を感じにくくなっているのはもとより、その日の天気を見て適切な服を選ぶことが難しくなってきた。無頓着ではなく、どうしたらよいのか考えが浮かばないようだ。
最近は一緒に出掛ける時、「これでいいかしら?」と、おどおどと私にお伺いを立てる。おしゃれ好きだった昔の母には決してなかったことだ。
初めの頃はそんな母の不安を理解せず、「なんで、そんな変な格好してるの!」などと言ってしまったものだが、この頃はやっと慣れてきた。
「今日は蒸し暑いからこっちの方がいいんじゃない?」と、すすめ方を工夫できる余裕も少しできた。
夏は熱中症が心配な一方で、気温、湿度、暑さ指数や夕立予報など、服装選びの材料が豊富でいい。話が弾むのだ。
「大変、暑さ指数が厳重警戒レベルだって! 熱中症にならないように涼しいシャツと、日よけに長袖を羽織った方がいいよね」などと言えば、「じゃあサングラスもいるわね!」と、母もノッてくる。