■ネット炎上に流されないために
──作中でも自動運転を扱っています。 また、例えば、米MITが「モラル・マシン」というネット上でのアンケート調査で 自動運転についてのリサーチを行っている。“現代版トロッコ問題”とも言える自動運転とAIについてどう思いますか?
玉井:「トロッコ問題」はつまり、ある人を助けるために他の人を犠牲にすることは許されるか、という思考実験ですが、これをいろいろな問題に置き換えてみるのは楽しいと思います。ですが、「トロッコ問題」は答えのある究極の選択ではないですし、ましてや正解のあるとんちやクイズのレベルで終らせてしまうととてもつまらないことになってしまう。
『エチカの時間』が描く「トロッコ問題」
「この問題の正解ってこうなんだぜ~」と知ったかぶりをして悦にいってもそれで終わるだけ。あらゆる倫理的哲学の思考実験がそうであるように、「トロッコ問題」も“自分がどういう人間か?”をあぶり出すことができるのが面白いところだと思います。それが、SNSでの炎上や“村の合議”に流されない自分の考え方をもつ力にもなるのではないでしょうか。
それを前提に考えた上で自動運転のことを考えると、AIを使おうが魔法を使おうが、運転の責任はドライバーにあると思います。
──正解のない究極の選択に挑み、自分自身をあぶり出す。マイケル・サンデル・ハーバード大教授の “白熱教室”が話題となりました。 そこでテーマになっていた「正義」についてどう思いますか?
玉井:倫理と正義はまったくの別物です。“正義”という語の元々の語源は”復讐”という意味だそうです。だから正義というのは立場の数だけ存在するものだと思います。ですので、ことさら“正義”という言葉で人を動かそうとしたり、行動の理由にしている人の話は眉に唾つけて聞かなければならないと思います。引きのある言葉ですし、作中でも扱ってみたいテーマですが、慎重に考えないと。