AFCチャンピオンズリーグ(ACL)はアジアのクラブチームにとって最も権威のある大会である。優勝チームは400万ドルの賞金とクラブワールドカップへの出場権を手にする。今年は浦和レッズがアル・ヒラル(サウジアラビア)とアジアの頂点をかけて戦うことになった。サッカーライター・麻野篤氏がレポートする。
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選手たち、そして多くのレッズサポーターにとっても、まったく予期せぬ光景だった。11月5日に埼玉スタジアムで行われたJリーグ第32節。ホームの浦和は、リーグ3連覇の望みを残す川崎相手に0-2の敗戦。完敗ともいえる内容だった。
無理もない。チームは週末にACL決勝1stレグとなるアウェイの大一番を控えている。この日は主力を温存し、前節の鹿島戦から8人の先発交代を行っていたからだ。
普段なら敗戦を受け入れられないはずの多くのレッズサポーターも、この日は違った。当日の深夜便で決戦の地サウジアラビアに向かう選手たちを拍手で送りだしたのだ。ブーイングなどで選手をネガティブに追い込んではいけない、少しでも選手にいいパフォーマンスを発揮して欲しい、という温かくも最大限の配慮だった。
さらに想定外の出来事は、その後に起きた。
先発を外れた興梠慎三、槙野智章らがピッチ脇で試合後のクールダウンのランニングをしながらアウェイスタンドの前を通ると、川崎サポーターから自然発生的に拍手と声援が湧きあがったのだ。
「がんばってこいよ!」
「Jの力を見せろ!」
驚いたことに川崎サポーターは、「Jリーグを代表してレッズにアジアチャンピオンになってほしい」という気持ちをストレートに選手たちにぶつけてきたのだ。
当初は困惑気味だった選手たちも状況を理解して反応しはじめる。ベテランの阿部勇樹はペコリと頭を下げ、興梠も軽く手を挙げて応じる。そして、リーグきってのエンターテイナーである槙野が、煽るように両手を振り上げると、川崎サポーターからはさらに大きな歓声があがった。
昨年までJリーグ2連覇を果たしている川崎は、過去ACLに7度出場もベスト8の壁すら破れていない。黄金期ともいえる充実ぶりで臨んだ今季もグループリーグで敗退と、アジアの分厚い壁には跳ね返され続けている。
浦和は、むしろその逆だ。リーグ優勝は1回にとどまっているのだが(ステージ優勝は除く)、ACLでは抜群の勝負強さを発揮してすでに2度の優勝を果たし、今季は3度目のアジア王者に王手をかけている。
Jリーグチャンピオンチームのサポーターからしても、ACLタイトルは憧れであり、日程や移動の過酷さなどを十分リスペクトしたうえでの、週末のビッグマッチへの彼らなりのエールだったのだろう。そしてそれは、多くのJリーグサポーターが内包しているものなのかもしれない。SNS上では、浦和を後押しするような他サポの声も少なくないのだ。