映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・三田村邦彦が、後に代表作となった「必殺」シリーズの飾り職人の秀役を引き受け、続けると決めたときの葛藤について語った言葉をお届けする。
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三田村邦彦は一九七九年に時代劇「必殺」シリーズの第十五作『必殺仕事人』で仕事人チームの一人「秀」を演じ、一躍人気スターになる。主人公の中村主水は藤田まことが演じた。
「最初は『必殺』は辞めたかったんです。お金をもらって人を殺して正義面をするというのが、嫌で。それでマネージャーに『できない』と言ったのですが、2クールだけやることになって。でも、それが延びると聞いて、プロデューサーに直接『できません』と言いました。
そうしたら、藤田さんが『ちょっと話そうか』って。それで僕は自分の思いを話しました。そうしたら、藤田さんはこうおっしゃるんですよ。
『わしは中村主水を正当化しようとは思わない。正義面しているわけでもない。でも、あの時代には悪い奴がいるのに、お上が袖の下を貰っているから裁かれることなくノウノウと生きている。コイツを生かしていたら、また犠牲者が増える。それなら、主水はこれを命にかえてでもやっつけなあかん。
主水もいいことしているわけじゃあない。人を殺しているんだから、いつかは自分も殺される。下水掃除でどぶ板を外したら主水がネズミに食われながら死骸になっている。そんな死に方がええと思っている。秀という役もそういうふうに考えてみたらどうだ』と。
カッコいいと思いました。『娯楽作品なんだから楽しもうや』くらいに馬鹿にされると思っていたら、凄く真面目に考えている。素敵な生き方をしていると思って藤田さんが好きになり、出続けることにしたんです」
時代劇初挑戦の三田村を支えたのは、「必殺」シリーズに長年たずさわってきた京都映画(現・松竹撮影所)のスタッフたちだった。