すでにトップ棋士たちのなかには、“打倒藤井二冠”の対策を練りに練ったうえで対局に臨んでいる者もいるという。カギとなるひとつが「持ち時間」の使い方だ。松本氏が続ける。
「今年7月の竜王戦決勝トーナメントで、丸山忠久九段(49)は藤井二冠に対し、完璧なゲームプランで勝利を収めています。この対局は千日手指し直しとなり、53手目の時点で藤井二冠の残りの持ち時間が2分しかなかったのに対し、丸山九段は1時間49分を残していた。藤井二冠は終盤の読みに絶対的な強さがありますが、丸山九段は持ち時間で大きなアドバンテージを持った状態で終盤に突入する状況を築いたのです。今年2月の朝日杯準決勝では、千田翔太七段が藤井二冠の3連覇を阻止しましたが、この時も藤井二冠が40分の持ち時間を使い終わって1分将棋に突入した時点で、千田七段は4分しか時間を消費していなかった。徹底的に事前研究を重ね、時間も形勢も差をつけて勝ったのです」
前述のインタビュー記事で渡辺名人も〈終盤で相手側が持ち時間を多く残しているのが、藤井君の負けパターンだと判断した〉と言及している。ただ、今後はそうした対策を重ねても、藤井二冠の勢いを止められるトップ棋士がいるかはわからないという。
「これまで藤井二冠との対戦成績で4勝0敗と圧倒している豊島竜王は最近、調子を落としていいます。豊島竜王や渡辺名人がもし藤井二冠に勝てないようであれば、藤井二冠は“ほぼ無敵”とさえ言えるように思えます。9月から始まる王将戦の挑戦者決定リーグで藤井二冠が挑戦権を手にして、さらに7番勝負に勝利して王将のタイトルを渡辺名人から奪えば、『藤井一強時代』の到来といってもいいのではないか」(前出・松本氏)
三冠、そしてその先へと突き進む藤井二冠と、それを阻止せんとするトップ棋士たち。盤上の熱戦は、まだまだ続きそうだ。