捨て身の攻撃を開始したトランプ氏は手ごわい(CNP/時事通信フォト)
「私はドラッグテストを受けても何の問題もない。アスピリンを飲んでいるくらいだ。バイデン氏もぜひ受けてほしい」というトランプ氏の発言は、少なくとも公平な主張であることは間違いない。それが有権者の知りたいことであるなら、双方が医療機関でテストを受けることには意味がある。
だが、バイデン氏にとっては判断が難しい。問題がなければ承知すればいいだけにも思えるが、簡単に応じれば、直接対決の前にトランプ氏の要求に屈した印象にもなる。大袈裟に言えば、臣下の礼を取ったと見られる可能性があるのだ。しかし、断れば国民に疑われる。そこで、作戦としてはひとまず要求を無視し、「トランプ氏は劣勢で必死になり、なりふり構わず嘘でもなんでも言う」と一蹴するのではないか。
ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプ氏が事実ではない主張を繰り返すことで、支持率が落ちていると指摘する。確かに、せっかく共和党大会の見事な演出で勢いを得たのに、その後は支持率が伸び悩んでいる。実は前回の大統領選挙でも、トランプ氏はヒラリー・クリントン候補に対して「何かドラッグを使っているのではないか」と突き付けた。この時もヒラリー氏は指摘を単に否定しただけで、ドラッグテストの要求は無視した。ただし、それがヒラリー氏には打撃になったことも事実である。トランプ氏としては、「言った者勝ち」の戦略でもあるし、信用を失うリスクもある諸刃の剣だ。勝負に出たということだろう。
筆者は、ヒラリー氏のやり方は失敗だったと思う。バイデン氏はドラッグテストを受けるべきである。どんな荒唐無稽な要求だろうと、あるいは嘘だろうと、相手から突き付けられた疑問を無視するというのは大統領選挙の兵法ではない。攻撃を受けたら反撃するのが定石である。そのスピードも重要だ。
もちろん、合法違法に関係なく、有権者が疑問を抱くようなドラッグを使っていたら万事休すだ。だからといって逃げ回れば、トランプ氏の思うつぼである。バイデン氏は、速やかにテストを受けて結果を公表すればいい。