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猫型タッチレスツール 100個の予定が5000個販売のヒット

しっぽがフックになっていることから「しっぽ貸し手」というネーミングに

 コロナ禍により、中小企業の倒産、飲食店の閉店、個人事業主の仕事の減少など、暗い話はあとを絶たない。しかし、中には窮地に立たされてから、思いもよらないアイディアで、業績をV字回復させた企業もある。

 コロナ禍の影響で、エレベーターのボタンやATMのタッチパネルなどを直接触らずに操作ができるアイディア商品「タッチレスツール」が各社で開発・発売され話題になっている。そんな、数多あるタッチレスツールのなかで、入手まで1か月半待ちという大人気商品がある。

 それが、「しっぽ貸し手」(3630円)である。

 猫のデザインがキュートで、タッチレス機能だけでなく、マスクも引っかけられるとあって、医療従事者の間で話題になり、当初は100個限定のつもりで製造したが、8月下旬までに5000個を売り上げた。

 製造したのは、愛知県豊川市にある社員7人の「山本製作所」。真鍮などの銅素材を切削・旋削して電気や車などの部品を製造する、いわゆる町工場だ。指揮をとったのは、祖父、父に続き、2012年に社長に就任した田中倫子さんだ。

 田中さんの会社も類に漏れず、今年に入ってからコロナの影響が及んでいた。受注が減ってきたのは2月末から。5月には社員全員の出勤日を半分に減らさなければいけない状況にまで落ち込んだ。

 既存の仕事だけに頼っていては会社の収入は減るばかり。何か新しい一歩を踏み出さないといけないと危機感を持った田中さんは、社員を集めてアイディアを募った。

 田中さんは先代社長の父親が急逝したのを機に看護師を辞め、28才で社長になった。そのときに会社のスローガンを「製造業から想像業へ」とした。

 いわれたモノを作っているだけではダメ、自分たちで新しいモノを作り出していかないと残っていけないと、社員に呼びかけていた。そのときがきたのだ。

元同僚の看護師の話と野良猫の存在が転機に

 そこでアイディアとしてあがったのが、タッチレスツールだ。同社が扱う真鍮は、殺菌作用やウイルスの不活性効果があり、感染対策グッズにはぴったりだったからだ。すぐに試作1号があがってきたが……。

「がっかりしました。よくある鍵の形のデザインで面白味がない。そんなとき、前の職場の同僚と話す機会がありました。私の前職は看護師。医療現場が逼迫しているまっただなか、元同僚の看護師たちはマスクを使い回さないといけないと嘆いていて、“食事のときなどにマスクをかけられるものがあったら便利なのに”と、口々に言っていました。そこでマスクかけとタッチレスツールを合体させることを思いついたのです」

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