今後は自分の花を咲かせてみたい
2016年には真由香も「春本由香」の名で劇団新派に入団した。2人の子供たちを、女手ひとつで育てあげた盛恵さんは、いまだからこそ思うことがあるという。
「私は小さい頃から舞台に立つ女優を目指して生きてきました。同じ舞台人として息子にはうらやましいような、ちょっと嫉妬のような不思議な感情があります。
私は長年、夫や息子、娘を支える“陰の存在”として生きてきましたが、かつて舞台を目指していた自分がいまなお心の中に存在していることに気づいたのです。今後は『自分という花を咲かせてみたい』と。舞台だと息子たちとかぶるから、バラエティー番組なんかでもいいかもしれないわね(笑い)」
盛恵さんは屈託なく微笑みながら、最後にハッとする告白をしてくれた。
「こうして人生を一から振り返ろうと思ったのは、実は、私の体調が大きく変化したからなんです」
盛恵さんは、今夏頃から、声がかすれる、扁桃腺のあたりにしこりがあるなど、喉に違和感があったという。かかりつけの耳鼻科を受診したところ、「何か大きな病気の可能性がある」と言われ、8月下旬に総合病院で精密検査した。
「甲状腺がんが見つかった、という診断でした。即日、手術の日時を決められました。告知されてかなり動揺しましたが、同時にこれまでの自分を振り返る機会を得たんだなとも思いました。そして、自分の心の中にある女優や舞台というものに対する思いに改めて気づかされたんです。
息子に『残念だけど、腫瘍は悪性だった』と伝えると、ひと息おいて『あ、そう……じゃあ、これからは好きなものを食べて大好きなことをすればいいよ』と、珍しいことを言いました。娘はショックを受けたようで、『パパに続いて、ママまでいなくなっちゃうの!?』と大号泣。『何よ? 私を殺す気? 大丈夫。ママは死なない! 帰ってくる!』と、逆に私が励ましたんです(笑い)。
闘病生活はそれなりに大変だと思うけど、そうした試練を経てこそ、自分という花を咲かせることができるんだと思っています」
盛恵さんはそう言って穏やかに微笑んだ。
◆写真提供/河合盛恵さん 取材・文/宇都宮直子
※女性セブン2020年10月22日号