「医療崩壊ともいえる状態が多発し、日常化してきた」「現状のままでは助かる命に優先順位をつけなければならない」──日本医師会の中川俊男会長は1月20日の記者会見で、新型コロナ対応に危機感を示した。
これまでも「国がGo Toトラベルを推進することで、国民が緩んでいるんです」と見直しを迫るなど、中川氏は「もの言う会長」として、政府のコロナ対策の遅れを厳しく批判してきた。
医療従事者を代表する団体トップの意見は重い。中川会長の会見はそのつど新聞やテレビで大きく取り上げられている。だが、その言葉に首を傾げる人たちがいる。他ならぬ医師たちだ。
「日本医師会(以下、医師会)は、医師全体を代表しているわけではない」と指摘するのは、京都大学名誉教授で呼吸器科の泉孝英医師だ。
「医師会には勤務医も入っていますが、執行部はほぼ開業医で占められており、基本的には開業医の経営を支援する団体です。中川会長は、多くのコロナ患者を受け入れている公的病院ではなく、開業医の意見を代弁している。私はアメリカやスウェーデンの病院に留学経験がありますが、日本はコロナ禍で他国と比べて一部の病院で過剰に医療が逼迫している。この歪な医療体制をつくった責任の一端は、開業医の利益を優先する医師会にもあります」
厚生労働省の統計によれば、日本の人口1000人当たりの病床数は13.1で、OECD(経済協力開発機構)加盟国トップ。かつ日本のコロナ感染者は米国と比べて30分の1、欧州各国と比べて10~20分の1と少ない。
なのになぜ、中川会長が言うように「医療崩壊が日常化」するのか。謎を解く鍵が、病院の受け入れ体制だ。
厚労省によると、全国4255か所の急性期病院のうち、コロナ患者を受け入れる病院は公立病院で約7割、公的病院で約8割だが、民間病院では約2割にとどまる。
コロナ患者を受け入れる数少ない民間病院の現場は過酷だ。大阪府私立病院協会会長の生野弘道医師が語る。
「大阪では高齢者施設でクラスターが続出し、行き場をなくした患者を受け入れる病床確保が急務となりました。私が理事長を務める傘下の民間病院では37床分コロナ患者を受け入れていますが、他の民間病院の受け入れは進まず、現場の医師や看護師からは『どうしてウチばかりで他の病院は受け入れないのか』との不満が出ています」