新型コロナと戦う医療従事者に敬意を表し、感謝を捧げる、それは国民の総意だろう。だが、上から目線で恐怖を煽る物言いに、拭い切れない違和感。「コロナ慣れだ」「気を抜くな」「このままでは医療崩壊だ」……そんな中川俊男・日本医師会会長の発言に疑問を抱いたのは、意外にも現場の医師たちだった──。
日本医師会とはどのような組織か。医療制度に詳しい中央大学教授の真野俊樹医師が指摘する。
「日本医師会は、日本の医師資格を持つ医師を加盟要件とする任意団体です。日本医師会、都道府県医師会、都市区医師会の3層構造で、組織を支える都市区医師会の圧倒的多数は町の開業医のため、勤務医より開業医の意向が反映されやすい」
日本医師会には全医師の52%が加入し、うち開業医は48%だが、「執行部はほぼ開業医」(京都大学名誉教授で呼吸器科医の泉孝英医師)だという。ちなみに、中川会長も北海道で新さっぽろ脳神経外科病院の理事長を務める開業医で、日本で初めて脳ドックを行なった脳神経外科の権威である。一方、コロナ治療の経験はなく、同病院もコロナ患者の受け入れやPCR検査は行なっていない。
開業医に有利な制度の象徴が、公的保険の「診療報酬制度」だ。初診料などで開業医が優遇され、継続的に多くの薬を出す医師ほど治療費を請求できる仕組みになっている。このため日本は世界的に見ても民間病院や診療所が圧倒的に多くなった。
「日本は民間病院が多いので、政府が政策的な医療体制を取ろうとしても、権限を欠いて実効性がありません。それゆえベッドはあるのにコロナ病床が少なく、入院できない陽性者が出ているのです。
国が入院患者をコントロールすべきですが、民間病院などに入院する高齢患者が重要な収入源となる医師会が現状維持を求め続けた結果、コロナ患者を受け入れられない病床ばかりになりました」(泉孝英医師)