少子化が進む一方で、大学進学率が5割を超える現在の日本。しかし、先進国の子供を対象とした「幸福度」調査では、日本は38か国中37位という最低レベルとなっている。勉強に勤しむことは、そのまま幸せにはつながらないのだろうか──。勉強と幸せの関係について、先人の意見に耳を傾けてみようではないか。
75才でツイッターを始めた「コンピューターおばあちゃん」こと埼玉県在住の溝井喜久子さん(86才)は1950年代半ば、2浪の末、お茶の水女子大学理学部に入学した。
「私はノーベル賞を受賞した湯川秀樹先生やキュリー夫人に憧れ、理系の研究者になろうと大学受験を決意しました。浪人してまで大学を目指したモチベーションは、その憧れだけです」(溝井さん・以下同)
当時、世間で主流だった「女性は結婚すれば勉強はできなくたっていい」という考えは溝井さんにはなかった。
大学卒業後、高校の生物教師になったが、26才のときに見合い結婚をすると仕事をやめて専業主婦となる。
「その頃は、女性の復職は難しかった。ですが、子育てをやりながら家で勉強することもできたから、仕事に固執することはありませんでした。夫のすすめもあり、幼い子供をおんぶしながら独学で相続税法や会計学の勉強を続けました」
31才で税理士試験の財務諸表論、38才で簿記論に合格するなど実績を重ね、そのおかげで義父や夫が亡くなった際、自分の知識で相続を行うことができたという。
「大学で身につけたのは、『物事を学ぶ力』そのものです。私が年を取ってからパソコンやツイッターに挑戦できたのは、大学が理系で丸きり遠い世界ではなかったこともありますが、『努力すればできる』ことが勉強を通じてわかっていたからです」
勉強することで人生を充実させてきた溝井さんだが、自分の学生時代と現代とでは、「勉強の質が変わった」と感じるという。
「私たちの時代は『大学でこれを学びたい』と目的があって入学していました。いまは就職するために必要だから大学に行きますよね。昔は、いろんなところへ足を運び、本をたくさん読んで、幅広く多くのことを学ぶ人が『勉強ができる人』でしたが、いまは勉強内容も偏っています。『勉強ができるから生きづらい』というよりも、『勉強が足りていないから生きづらい』のではないかしら。知識ばかり豊かになっても、経験が貧しい人は話もつまらないし、人からも好かれない」