ボロボロになっていた俊夫さんの国家公務員倫理カード
俊夫さんは、お気に入りの服を初めて着るのはいいことがある日と決めていた。このパンツもそうするつもりだったはずだが、この後、改ざんをさせられてしまう。その後、いいことはなかった。だからこのパンツは穿く機会のないまま、今も自宅のクローゼットにしまわれている。
買い物の後、俊夫さんが「梅林公園に行こうか」と言い出して、夫婦で訪れた。ちょうど梅の季節。暖かな日差しの陽気のもと、梅は満開を迎え、あたりに梅のかぐわしい香りがたちこめていた。
打って変わって今日の神戸は雨。雅子さんは同じ梅林公園にいた。あの時、夫婦で眺めたのと同じ時間。同じ梅の前で佇むと、つらかった日々の気持ちがよみがえる。だが俊夫さんの遺書を公表した後は、大勢の人が味方をしてくれるようになった。あの日以来、初めてここを訪れることができた。
「この雨は夫の涙ですよね、きっと。私たちの幸せな時間はここで終わったんです。なぜ終わってしまったのか、明らかにしてほしいです」
今、雅子さんの手元に1枚のカードがある。国家公務員倫理カード。夫、俊夫さんが手帳に挟んでいたものだ。毎年新しい手帳に挟み変えていたのだろう。表面がこすれて色が落ちている。そこにはこう書かれている。
・国民全体の奉仕者であることを自覚し、公正に職務を執行していますか?
・国民の疑惑や不信を招くような行為をしていませんか?
・公共の利益の増進を目指し、全力を挙げて職務に取り組んでいますか?
俊夫さんは、こうした言葉そのままに誠実に職務にあたる国家公務員だったという。これらの言葉に忠実に、俊夫さんは上司からの改ざんの指示に相当に反対し抵抗したというが、最後はやらされてしまう。しかも繰り返し。さぞつらかったことだろう。それがうつ病を呼び、死に至らしめた。悲痛な言葉を机の上に手書きで残して。
〈これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ〉
この俊夫さんの倫理カードについて、階議員は26日の国会でパネルにして紹介した。「公務員の鏡だ。私たちは宝を失った」と。その言葉が雅子さんは何より嬉しかったという。「財務省の人たちがみんなこのカードの通りにしてくだされば改ざんなんて起きないし、夫も死なずに済んだんです」
それが2月26日を迎えての、雅子さんの思いだ。