ビジネス

トヨタが描く「水素社会」3つのポイント 未来への挑戦、そして期待

2世代目となる新型MIRAI。航続距離も延びた(トヨタ自動車提供)

2世代目となる新型MIRAI。航続距離も延びた(提供:トヨタ自動車)

 トヨタ自動車が富士山麓(静岡県裾野市)で建設を始めた“未来都市”が話題となっている。「Woven City(ウーブン・シティ)」と名づけられた街は、東京ドームおよそ15個分・約70万平方メートルもの広大な敷地を有し、自動運転やICT(情報通信技術)を駆使したコネクテッドカー(つながるクルマ)など技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回す。単にクルマの開発にとどまらず、ヒト中心の街づくりの実証プロジェクトというトヨタの壮大な試みがスタートしたのである。

 いま、「100年に一度の大変革期」といわれる自動車業界にあって、トヨタは“自動車をつくる会社”から“モビリティカンパニー”への変貌を掲げている。豊田章男社長はこれについて、「世界中の人々の『移動』に関わるあらゆるサービスを提供する会社になる」と語っている。ウーブン・シティは、様々なモノやサービスがつながる、「ヒト中心の街」、「実証実験の街」、「未完成の街」というわけだ。

 このように社会全体の変革にトヨタがコミットしようとしている中で、同社がもうひとつ旗振り役となって注力しているのが、「水素社会の実現」である。

 地球温暖化、大気汚染など深刻化する環境問題を考えたとき、CO2(二酸化炭素)の排出削減は避けて通れない。菅義偉首相も「2050年にカーボンニュートラル(※注)、脱炭素社会の実現を目指す」と表明しており、クリーンで持続可能な社会を構築するためには、エネルギーの多様化が必要だ。そこで、将来有力なエネルギーの一翼を担うとして注目を浴びているのが水素なのである。

※注/モノが生産され廃棄されるまでの間にCO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになること。

信頼性の高い水素の保存方法も開発

 水素は、水を電気分解することで取り出すことができ、酸素と結びついて発電する。化石燃料と違ってエネルギーとして使用した際にはCO2を出さず、出るのは「水だけ」である。トヨタは1992年から水素を利用した環境技術開発を進め、2014年に“究極のエコカー”と呼ばれる世界初の量産型FCV(燃料電池自動車)『MIRAI(ミライ)』を発売。2020年12月より航続距離を伸ばし、操縦性にもこだわった2代目となる新型MIRAIを発売している。

 いまは次世代車といえばEV(電気自動車)のイメージが強く、もちろんトヨタもEV開発は進めているが、「EVかFCVか」の二者択一ではなく、既存エネルギーとの棲み分けも図りながらゼロエミッション車への切り替えを行っていく構えだ。そのため、FCV開発にも余念がなく、長く本気で取り組んできた。

 なぜ水素なのか──。ここには3つのポイントがある。

 まず、前述の通り、水素は使用過程において、CO2排出量がゼロだということだ。現在では、水素を製造する過程で火力発電の電気を使うことなどからCO2が発生しているが、将来的に再生可能エネルギー(太陽光や風力など)によって安定的・効率的に水素を製造できるようになれば、CO2を排出しない水素社会を実現できることになる。

 2つ目のポイントは、水素は“ほぼ無限”に作ることができるということだ。化石燃料は有限だが、水の惑星である地球では、水を電気分解すればいくらでも水素を作ることができる。また、下水の汚泥や天然ガスから水素を取り出す研究も進んでいる。

 3つ目は「貯める」「運ぶ」ということができる点だ。太陽光発電や風力発電は天候・気象により発電できないことがあって安定的ではないとされるが、太陽光や風力で得られた電力を水素に変換しておくことで、「貯める」「運ぶ」が可能になる。

 水素をめぐっては「可燃性がある」「危険だ」といったイメージがあるが、信頼性の高い保存方法も研究・開発されている。前出のMIRAIでは、耐久性と強度が確保された高圧水素タンクで「漏らさない」、そして万が一にも水素が漏れた際にはバルブを遮断し、漏れた水素を拡散させるという技術が搭載されている。

水素ステーションは全国に増えつつある(提供:岩谷産業株式会社)

水素ステーションは全国に増えつつある(提供:岩谷産業株式会社)

 FCVは燃料コストや水素充填のステーション整備の問題など普及に向けての課題はあるが、EV(電気自動車)に比べて水素燃料は充填時間が短く、前出の通り「貯める」「運ぶ」といったこともできる。そのため、大量にエネルギーを消費する大型トラックやバス、建設機器、漁船、鉄道車両などニーズは限りなく広がっているのだ。

 こうした水素社会の大きな基盤をつくるためには、トヨタ1社の力だけでは限界があるだろう。そこで2020年12月にトヨタをはじめ民間企業88社が水素インフラの整備を進める「水素バリューチェーン推進協議会」を発足させた。まさに“オールジャパン”体制で水素の需要創出、技術革新によるコスト削減、事業者に対する資金提供などを行っていくという。

 さらに、トヨタはFCVの心臓部ともいえる自社開発の燃料電池システムの外販に乗り出す。2015年にはFCV普及に向けた取り組みの一環として、5000件以上の関連特許を無償開放している。より多くの企業がFCV事業に参画しなければ市場は成熟しないからだ。ここからも水素にかけるトヨタの本気度がうかがえる。

 豊田社長はよくインフラとクルマを“花とミツバチ”の関係に例える。「一方だけでは繁栄できず、互いに求め合いバランスが取れて初めて共存できる」(豊田社長)ということだ。

 ウーブン・シティの中には、燃料電池発電や物流設備などの生活インフラも整備される予定だ。トヨタが描く「水素社会の未来」は、どこまで花を咲かせてミツバチを集めることができるのか──。その手腕とリーダーシップに期待が高まっている。

トピックス

大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
焼酎とウイスキーはロックかストレートのみで飲むスタイル
《松本の不動産王として悠々自適》「銃弾5発を浴びて生還」テコンドー協会“最強のボス”金原昇氏が語る壮絶半生と知られざる教育者の素顔
NEWSポストセブン
沖縄県那覇市の「未成年バー」で
《震える手に泳ぐ視線…未成年衝撃画像》ゾンビタバコ、大麻、コカインが蔓延する「未成年バー」の実態とは 少年は「あれはヤバい。吸ったら終わり」と証言
NEWSポストセブン
米ルイジアナ州で12歳の少年がワニに襲われ死亡した事件が起きた(Facebook /ワニの写真はサンプルです)
《米・12歳少年がワニに襲われ死亡》発見時に「ワニが少年を隠そうとしていた」…背景には4児ママによる“悪辣な虐待”「生後3か月に暴行して脳に損傷」「新生児からコカイン反応」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
“1日で100人と関係を持つ”動画で物議を醸したイギリス出身の女性インフルエンサー、リリー・フィリップス(インスタグラムより)
《“1日で100人と関係を持つ”で物議》イギリス・金髪ロングの美人インフルエンサー(24)を襲った危険なトラブル 父親は「育て方を間違えたんじゃ…」と後悔
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」