1988年、左からセナとプロスト(写真/AFP=時事)

1988年、左からセナとプロスト(写真/AFP=時事)

 当時の若者にとって「ホンダ車」は憧れの存在だった。1981年「シティ」、1983年「シビック」、1985年「アコード」、1987年「CR-X」「プレリュード」、そして1989年の「インテグラ」……。数々の名車が生まれ、セールスも好調だった。

「F1のホンダ」の象徴とも言えるのが、1990年登場の「NSX」だろう。F1の性能に限りなく近づけるため、世界初のオールアルミボディを実現。セナが鈴鹿でテスト走行するという話題づくりもあり、800万円超の価格でも飛ぶように売れた。

「ホンダらしさ」がF1での勇姿とイコールだった時代は確かにあった。フジテレビF1解説者で、レーシングカーデザイナーの森脇基恭氏が言う。

「私のホンダ時代の同期に、元社長の福井威夫がいます。彼が2000年にF1に再挑戦しようと決意した頃、私は相談を受けたことがありました。

 私が『フェラーリやアストンマーティンのようなスポーツカー専門メーカーならまだしも、普通乗用車とレースカーは技術がかけ離れている。F1参戦は必要ないのでは』と言うと、彼は『小さなホンダでもF1ならメルセデスやフォードという大メーカーを技術でやっつけることができる。それが魅力であり大切なんだ』と答えました。ホンダが多くのデメリットがあってもF1に参戦し続けたのは、自分たちの持っている技術やファイティングスピリットを世界に示す場と考えていたからだと思います」

 ところが現在、ホンダの自動車で販売上位にランクしているのは軽の「N-BOX」のみ。ホンダがレースと距離を置こうとするのは必然なのかもしれない。前出・片山氏が言う。

「ホンダは、同じようにかつて“ものづくり”の企業として世界に名を馳せたソニーに学ばなければいけないのかもしれません。ホンダがF1で活躍した時期、ソニーはウォークマンなどAV機器で世界一になりました。しかしその“成功体験”に囚われたため、長い間赤字を垂れ流してきたことは否めません。ハード偏重の姿勢を改め、ゲーム、映画などソフトを軸にした新しいソニーに10年がかりで移行したからこそ今の好調がある。ホンダもF1の郷愁を捨て、新しい価値観の構築に取り組まなければならない局面にきている」

 八郷社長は「再参戦は考えていない」と明言している。エンジンの轟音に熱狂したあの時代が、遠くに過ぎ去ろうとしている。

※週刊ポスト2021年4月2日号

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