佐藤愛子さん

最新&最後のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』が刊行された佐藤愛子さん

 定年がない仕事の「引き時」というのは難しいものです。人は定年があるから、個人の葛藤は別として、平穏に職場を去っていくのだと思います。

 私自身も、引き時は考えています。それは、書き残したいテーマを書き終えた時。もしあと2~3年の寿命に恵まれたら、書き残しておきたいテーマがあるんです。もう準備は始めていて、今はこれが生きるエネルギーになっています。とはいえ、結局のところ、有名無名にかかわらず、我々は注文が来なくなった時が引き時。だから、佐藤先生のように存命中に余力を残して断筆を宣言できるかたは、残念に思いつつも、本当に幸せだと思います。

 一方で、すごく楽観もしているんです。文筆業は、自分はもう書かないと決めても、著書は残ります。中には一定の影響力を持つ作品も。例えば、夏目漱石は49歳で多くの著作を残して亡くなりましたが、夏目漱石は今でも死んでいません。佐藤先生も、たとえ書かなくなったとしても、確実にこれから先も長く生き続けます。

 みなさんには、日本の出版界における、ここ10年ほどの90代女性の文筆家たちの活動を記憶しておいていただきたいと思います。佐藤愛子先生をはじめ、多様な分野の著名女性たちが長い人生を振り返り、それぞれの持ち味、専門を生かして、かつてなかった長い寿命、老いの生き方に大きな示唆を与えてくださいました。一人一人誠実にご自分の人生に向き合いながら、読者に問いかけてくださいました。佐藤先生はその中の大スターです。

「人生100年時代」という人間の新しい生き方の始まりです。それに最初に気づいたのは男性より平均寿命が長くて少子化の影響をいち早く感じとった女性の側でした。今、男性もこの新たな長寿社会に向き合いつつあります。21世紀の人間の課題の一つは明らかに「老いをどうするか」です。だからみなさん、がっかりする必要はありませんよ。佐藤愛子は永遠です。

【プロフィール】
樋口恵子(ひぐち・けいこ)/1932年生まれ。評論家、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長、東京家政大学名誉教授。『老いの福袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88』など著書多数。

※女性セブン2021年8月19・26日号

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン