その後も永島は映画やテレビドラマに立て続けに出演、デビューから数年で確固たる評価を築いていった。
「僕は本名も芸名も永島敏行なのですが、芸名の永島敏行がどんどん先に行って、本当の永島敏行は何もできないのに──という想いが凄くありました。
それでもよかったのは、東監督や出会った人たちが『お前は芝居できないんだから、しようと思うな』と言ってくれたことです。『土のついた大根だから、そのままでいろ』『下手に演技なんか考えるな』って。つまり、僕は素材なんですよね。そういう意味では、経験がないことがよかったのかもしれません」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2021年8月20日号