女性支持を高めた「ムーヴキャンバス」
ムーヴキャンバスは、ハスラーが軽クロスオーバーSUVのパイオニアだったのに対し、スーパーハイトワゴンではいわばお約束の、両側スライドドアをハイトワゴンに持ち込んだ先駆者といえる。
初代のハスラーは、丸目で愛嬌がある可愛らしいフロントマスクにやや丸みのあるフォルム、お洒落なツートーンカラーという立て付けに、SUVらしく最低地上高を上げて大径タイヤを組み合わせた妙が効いた。
一方、ムーヴキャンバスも1655mmに抑えた全高に両側スライドドアを採用した点が上手くニーズを掘り起こした形だが、このクルマも、初代ハスラーとはまた違った訴求で独自のポジションを掴んだといえる。
パッと見、ムーヴキャンバスはどのクルマのデザインにも似ておらず、よく言われるのが、ミニバスのようなスタイルのフォルクスワーゲン「タイプ2」を彷彿とさせるというもの。愛嬌があるフロントマスクやボクシーなフォルムにツートーンカラーもよく映える。
またテレビCMも、シンガーソングライターの藤原さくらが歌う、大瀧詠一の「君は天然色」のカバー曲が海辺に佇むムーヴキャンバスとマッチし、ほのぼのまったりした感じをうまく演出、特に女性の支持が高まった。
広がる「スライドドア」の需要
このムーヴキャンバスも、登場からすでに丸5年が経過する。そこで、ハイトワゴンジャンルでも両側スライドドアのニーズが高いことを鑑み、スズキもワゴンRスマイルを投入したというわけだ。
ワゴンRスマイルの開発を担当した、商品企画本部チーフエンジニアの高橋正志氏はこう語る。
「スライドドアのニーズは年々増加し、すでに軽自動車市場で半分以上の販売がスライドドア車です。スライドドア車は従来、ファミリー層向けのスーパーハイトワゴンに需要がありましたが、もっとパーソナルなクルマ、もっと自分らしく自分色に染められるクルマにもニーズが増えてきています。
また、お客様にヒアリングしても想定以上にスライドドアの使い勝手の良さが評価されており、我々も4年前ぐらいから(ハイトワゴンへの搭載を)検討し始めました。『ムーヴキャンバス』の存在も開発のきっかけの1つだったことは事実です」
また、子供やお年寄りの乗り降りや荷物の出し入れで便利なスライドドアは、一度使うとヒンジ型ドアに戻れないという人も多い。ムーヴキャンバスのヒットはスライドドア車の鉱脈に広がりがあったということなのだろう。ともあれハスラー vs タフトとは逆に、今度はスズキが挑戦者ということになる。
ちなみに細かいことだが、ダイハツ車はムーヴやタント以外、たとえば「キャスト」や「ミラトコット」、それにムーヴキャンバスといったクルマのフロントエンブレムは、ダイハツの「D」の文字を冠していない。一瞬、どのメーカーのクルマかわかりにくくしていることも案外、功を奏しているのかもしれない。