大人が個別に「良い」と思う政治を若者に押し付ける構図は、大学や学校だけで起きているわけではない。神奈川県在住の専門学校生・依田アリサさん(仮名・20代)は、ネット上で話題になっていた「生理の貧困」問題に注目し、いてもいられなくなって、ネットで調べた最寄りのNPO法人を訪ねたが、予想外の要求に困惑させられた。
「生理用品さえも買えない子供がいることに驚き、支援活動をしているNPOに顔を出したんです。最初はにこやかに受け入れてくれたんですが、選挙ではどこに投票しているのかとかしつこく聞かれました」(依田さん)
依田さんが訪ねたNPOの代表は、表向き、特定の政党を応援するような発言をしていなかった。だから安心して問い合わせできた面もあったのだが、実際に顔を合わせると、その印象はかなり違っていたと振り返る。
「はっきり、今の与党はダメだから、別の特定の党を応援しなさい、と言われましたね。あと、活動がしたいなら、顔と名前を出して、SNSで発信しなさい、とも。NPOで働くボランティアには同い年の女の子もいましたが、SNSで情報発信するのも全部代表のチェックが入る。大人の意見を若者に代弁させているだけなんですよ」(依田さん)
心あるスタッフが「就職活動に影響する」と耳打ちしてくれたため、依田さんがSNSでNPO活動について発信することはなかったが、その途端に会合に呼ばれないなどの冷遇が始まった。冷たくされれば気持ちが変わるのは人間関係も社会運動も同じだ。活動からは自然とフェードアウトしたという。
若者が政治に関心があるのかといえば、確かにない、と考える人の方が多いだろう。子供から大人になる過程で、政治なんかに時間を費やすほどヒマではないし、我々自身が若い頃にどうだったかを思い出せば、それが「悪いこと」と言えるのか、わからなくなってくる。
しかし、学費の高騰や税金の問題、年金だって本当にもらえるのかわからないという現状の下で、多くの若者が将来に不安を感じているのは事実。むしろ、かつての若者より、将来に対する不安は増大化しているはずだ。社会の課題を解決したいと政治の世界に興味を持つ若者は増えているように思われるのに、実際に政治に参加しようとすると、そこに待ち受けているのは、若者を利用しようとする大人だ。
若者が興味を持っていないのは、大人たちの事情で全てが決まっていく今の政治である。平穏な日常生活を送るための課題を討論するのではなく、政局ばかりが話題になる今の政治である。もし、社会の課題を解決するための政治が行われているのであれば、若者たちは自然と政治に興味を抱くのではないか。「政治」を大人たちが独占しているような現状を変えていくことが、若者を動かす最適解のはずだ。