都議がマスコミを引き連れて七生養護学校を訪れ、都教委は教材である人形や副読本を没収する事態に至った。自民党保守派の国会議員らも批判派に加わった。

「性教育の必要性やあり方についての議論は全くなされず、一方的な攻撃だったと考えます。いきなり学校に押しかけ、教材として使われている人形を集め、わざわざ服を脱がせて性器が見える状態にして並べて撮影した。現場で工夫を重ねる教師や学んだ子供たち、親の声も一切聞かず、卑猥だポルノだと世間に喧伝したのです」(村瀬氏)

 その後、同校の元教員らは都教委と都議による不当介入であるとして裁判を起こし、2013年に原告への賠償を命じる判決が確定した。

 また、2018年に足立区の中学校で実施された避妊や中絶についての授業が都議会で「発達段階を無視した不適切な性教育」と指摘される。性の実態に踏み込んだ内容に立ち入ろうとすると、批判の対象になるということが繰り返されたのだ。

 ただ村瀬氏はこうも語る。

「2018年のバッシングのときに感じたのは、この10年くらいの間に世論が大きく変わってきているということ。2003年のバッシングの頃と全く違い、今は学校での性教育をもっと活発にしてほしいという親からの声が聞こえてきます。

 一方、性について学んでこなかった大人の中には“学ぶ”ことがイメージできず、そんなものは不要だと言う人もいます。さまざまな人々が幸せに生きるため、日本の性教育はこれから大きく変わっていく必要があると感じています」

【プロフィール】
村瀬幸浩(むらせ・ゆきひろ)/1941年生まれ。私立和光高等学校保健体育科教諭として勤務後、一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを25年間講義。共著書に『おうち性教育はじめます』などがある。

※週刊ポスト2021年12月10日号

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