ライフ

【江戸文人の変人伝説2】風俗画家・英一蝶「パトロン滅ぼす遊び人」

芸者遊びと吉原通いでパトロン大名の財を吸い尽くした

芸者遊びと吉原通いでパトロン大名の財を吸い尽くした

 江戸時代の文化人の「奇抜エピソード」を紹介するシリーズの2人目は、『四季日待図巻』などの作品で知られる英一蝶(はなぶさ・いっちょう)。狩野派に学んだ正統派ながら、人々の生活を明るく描く風俗画家に転じ、作品は江戸幕府の中枢にいた大名たちからも人気を集めた。そんな元禄文化人が11年間にもわたって三宅島に流罪となった理由とは──『文人たちの江戸名所』(世界書院)の著者・竹内明彦氏が調査した。

 * * *
 最初に断わっておくと、英一蝶という画号は、彼が流罪を終え江戸に戻ってから名乗ったもの。流刑前の彼は多賀朝湖(たが・ちょうこ)の名を使っていたが、本稿では「一蝶」で通すことをご了承いただきたい。

 古今東西、著名な芸術家に活動を支援するパトロンがいたケースは数多い。売れっ子画家の一蝶もその例に漏れず、有名大名から“将軍家のゴッドマザー”までもパトロンに抱えていた。

 現代でもタニマチが有名俳優やプロスポーツ選手などを宴席に連れ回すことは珍しくないようだが、中には遊び癖に歯止めがかからなくなってしまう芸能人やスポーツ選手もいるらしい。一蝶はその究極のパターンだったようだ。一蝶の悪友・仏師民部(鎌倉時代から続く仏師の系譜で、後に一蝶とともに流罪となる)が記した懺悔録をもとに、江戸後期の戯作者・山東京山の随筆『一蝶流謫』が、その“遊びっぷり”を伝えている。

 最初に一蝶の“餌食”になったのは掛川藩主・井伊直武。初代将軍・家康を支えた「徳川四天王」と称えられた井伊直政の孫で、言うまでもなく徳川幕府きっての名門である。だが、お坊ちゃま大名の直武は、一蝶らにおだてられるままに屋敷に芸者や幇間(男芸者)を呼んでドンチャン騒ぎ。それが終わると総勢を引き連れて吉原へ繰り出し、金銀をバラ撒いたという。ついには13万両あったといわれる井伊家の藩庫は空っぽに。そうした放蕩が響いたのか、掛川井伊家は直武の次の代で改易となってしまった(その後、養子を迎えて再興)。

 そんなことがあったので、一蝶は幕府から“大名を堕落させる毒虫”としてマークされる。そして元禄六年(1693年)、時の将軍・徳川綱吉を揶揄する風聞が江戸の町に広まると、一蝶や民部を“アイツらならやりかねん”として捕らえてしまったのだ。しばらくして真犯人が捕まり一蝶らは2か月ほどで入牢を解かれるのだが、一蝶はそれに懲りるどころか遊びっぷりをエスカレートさせる。

 自由の身になった一蝶はまたも幕府の有力者たちに近づき、今度は高家(幕府の儀式や典礼を担当する職)の六角広治をターゲットに。画力に匹敵する一蝶の“カネの嗅覚”は確かで、広治は大叔母にあたる桂昌院に一蝶を推薦する。桂昌院は将軍・綱吉の生母(3代将軍・家光の側室)にして従三位の高位にあった“将軍家のゴッドマザー”だ。東大寺や長谷寺など寺院の復興を推進し、当時の“建築ブーム”を起こした人物でもあった。幕府の金蔵を握る桂昌院がパトロンになったことで、一蝶と広治の遊びはさらに派手になっていく。

関連記事

トピックス

被害男性は生前、社長と揉めていたという
【青森県七戸町死体遺棄事件】近隣住民が見ていた被害者男性が乗る“トラックの謎” 逮捕の社長は「赤いチェイサーに日本刀」
NEWSポストセブン
体調を見極めながらの公務へのお出ましだという(4月、東京・清瀬市。写真/JMPA)
体調不調が長引く紀子さま、宮内庁病院は「1500万円分の薬」を購入 “皇室のかかりつけ医”に炎症性腸疾患のスペシャリストが着任
女性セブン
学習院初等科時代から山本さん(右)と共にチェロを演奏され来た(写真は2017年4月、東京・豊島区。写真/JMPA)
愛子さま、早逝の親友チェリストの「追悼コンサート」をご鑑賞 ステージには木村拓哉の長女Cocomiの姿
女性セブン
1980年にフジテレビに入社した山村美智さんが新人時代を振り返る
元フジテレビ・山村美智さんが振り返る新人アナウンサー社員時代 「雨」と「飴」の発音で苦労、同期には黒岩祐治・神奈川県知事も
週刊ポスト
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
【視聴率『愛の不時着』超え】韓国で大ヒット『涙の女王』 余命宣告、記憶喪失、復讐など“韓国ドラマの王道”のオンパレード、 華やかな衣装にも注目
【視聴率『愛の不時着』超え】韓国で大ヒット『涙の女王』 余命宣告、記憶喪失、復讐など“韓国ドラマの王道”のオンパレード、 華やかな衣装にも注目
女性セブン
公式X(旧Twitter)アカウントを開設した氷川きよし(インスタグラムより)
《再始動》事務所独立の氷川きよしが公式Xアカウントを開設 芸名は継続の裏で手放した「過去」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン
タイトルを狙うライバルたちが続々登場(共同通信社)
藤井聡太八冠に闘志を燃やす同世代棋士たちの包囲網 「大泣きさせた因縁の同級生」「宣戦布告した最年少プロ棋士」…“逆襲”に沸く将棋界
女性セブン