18世紀のフランス革命を舞台に、王妃マリー・アントワネットと、男装の麗人オスカルの激動の人生を描いた『ベルサイユのばら』。1972年に『週刊マーガレット』でこの名作の連載が始まってから、2022年で50周年を迎えた。
連載当初から多くの女性たちの心をつかんだ『ベルサイユのばら』の人気を支えたのは、緻密な歴史考証と魅力あふれるキャラクターだ。それはどのように生み出されたのか、作者の池田理代子さんに話を聞いた。
男装の麗人は苦肉の策だった!?
「2013年にフランスのオランド大統領(当時)が来日した際、同行していた外交官が、“フランス革命はあなたの本で勉強しました”と言ってくださったんです」
そう話すのは、劇画家の池田理代子さん(「」内以下同)だ。それもそのはず、『ベルサイユのばら』の時代考証は綿密にされており、ヨーロッパの歴史や文化に関する資料を整理するだけで2年を要したという。
「もとは、高校2年生のとき、オーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクの『マリー・アントワネット』を読んだのが、この作品を描くきっかけとなりました」
池田さんは“ベルばら”の企画を編集部に持ち込んだが、即座にボツにされる。当時、歴史ものは男性読者のもので、女性や子供にはウケないと思われていたのだ。
「人気が出なかったら連載ストップで構わないという条件付きで、連載を始めました。ですから、必ずヒットさせなければならなかったんです」
いざ描くとなったとき、池田さんはルールを決めていた。
「当時のことを批判するのだけは慎もうと。それこそが歴史を見る上でいちばん大切なことだと考えていました」
史実に批判的考察は入れず、登場人物もただの悪者にはしない。その結果、連載開始当初から、ファンレターが毎週段ボールいっぱいに届けられるほどの人気を博した。それを牽引したのが、オスカルの存在だった。
「アントワネットやフェルゼンは実在の人物ですが、オスカルは架空の人物。ただ、その生きざまは、フランス革命時、民衆側について戦った衛兵隊隊長ピエール・ユランと、ボクサーとしての功績を剥奪されてもベトナム戦争反対の信念を曲げなかったモハメド・アリをモデルにしています。容姿は、映画『ベニスに死す』(1971年)に登場する美少年タッジオ(ビョルン・アンドレセン)に触発されました」
モデルはいずれも男性だが、女性にしたのは、男性衛兵隊員の日常生活がわからなかったため、苦肉の策だったという。しかし、これが功を奏し、新しいヒロインを作り上げることになったのだ。