2006年に貝殻島近海で銃撃された「第31吉進丸」(左)。甲板員が死亡した(時事通信フォト)

2006年に貝殻島近海で操業中にロシア国境警備隊に銃撃され、国後島の古釜布港に係留された「第31吉進丸」(左)。この事件で甲板員1名が命を落とした(時事通信フォト)

 潮目が変わったのは1990年。ソ連崩壊の足音が近づく中で、レポ船の存在をロシア側が黙認しなくなったのだ。1991年に誕生したロシア連邦は、違法操業する日本漁船の取り締まりを強化した。1993年には水晶島付近で操業していたカレイの刺し網漁船が銃撃され、船長が重傷を負う事件が発生。船長は8か月間、色丹島に抑留された。

 その後も銃撃事件が相次いだことから、事態を重く見た日本は1998年、日本漁船の安全操業を可能とする協定をロシアと締結。日本がロシア側に多額の協力金などを支払うことで、北方領土周辺海域でホッケやスケトウダラの刺し網漁などが可能になり、銃撃事件も数年間は起きい時期が続いた。

 だが2006年8月に“平和な海”に銃声が響く。根室のカニかご漁船「第31吉進丸」が貝殻島付近でカニ漁をしていたところ、ロシア国境警備隊に銃撃され甲板員1人が死亡。拘束された船長らは国後島に連行された(船長は国境侵犯と密漁で罰金刑となり、10月に釈放された後に帰国)。

 地元のベテラン漁師が語る。

「銃撃現場ではカニ漁を含め、あらゆる操業が認められていなかったのは事実だった。当時、花咲ガニの漁獲量が激減しており、銃撃事件もしばらく起きていなかったため、つい船を向けてしまったのだろう」

 日本側は強く抗議したものの、ロシアは正当な国境警備行為であるという主張を崩さず、日本は《自国の領土内で起きた殺人事件》に泣き寝入りを余儀なくされたのである。

 その後もロシア国内の政治情勢の変化などにより、運用基準が突然変更されるケースが幾度となく繰り返されている。近年は洋上の緊張も和らいでいたが、2019年以降、北方領土周辺海域におけるロシア側による日本漁船への「臨検」が増えている。前出のベテラン漁師はこう話した。

「もともと1998年の安全操業協定は、日本漁船への臨検を認めない約束で始まっていた。実際に5年ほど前まで漁船への臨検なんてなかった。ところが2018年、操業に影響を及ぼさないという条件で“ロシア当局による洋上見学”を日本側が認めてしまったことで、なし崩し的に臨検が行なわれるようになった。大いに漁に影響が出ているよ」

 そしてウクライナ戦争に伴う対露経済制裁への“報復措置”かのように、2022年の日本漁船への臨検は6月から9月にかけて366隻を数え、前年の4倍以上に激増した。

「日本固有の領土・領海」での操業にもかかわらず、日本人漁師はロシア当局の意向に振り回され、拿捕・連行・銃撃される危険に怯えている。ロシア-ウクライナ国境のように軍隊がぶつかり合う戦争ではないにせよ、日露国境でも“海戦”ともいえる事態が続き、日本側は防戦さえままならぬ状況に追い込まれている。国境の漁港に平穏が訪れる日はいつ訪れるのだろうか。

(文・写真/山本皓一 取材協力/欠端大林)

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