「長年、薬を飲み続ける方は多くいますが、本当にこのまま“薬漬け”の生活でいいのでしょうか」。そう語るのは、熊本市にある松田医院和漢堂の松田史彦院長だ。松田医師は同院で日本初の「薬やめる科」を開設し、積極的な断薬・減薬の取り組みを行なっている。「薬やめる科」開設の理由を、松田医師が語る。
「健康になるために薬を飲んでいるはずが、どう見ても健康そうではない方が多い。その原因は薬が作っているのではないかと思ったのです。現代医療は内科、外科など専門分化することで発展し、患者さんは複数の診療科を受診することで多種類の薬を飲むことになりました。その弊害が疑われる今、医療に必要なのは薬の足し算ではなく引き算。そのために作ったのが『薬やめる科』です」
日本の高齢者にとって、「多剤併用」は長らく問題となっている。厚生労働省の最新統計では、1回の受診で5~6種類以上の薬を処方された75歳以上は4割超だった(令和3年社会医療診療行為別統計)。薬剤師の長澤育弘氏が言う。
「化学物質である薬には、効果効能とともに、副作用があります。6種類以上の服用で副作用は起こりやすくなるとされ、多剤併用の高齢者ほどリスクが高い。歳を取るほど薬を代謝・排出する役割を持つ腎臓や肝臓の働きも低下するため、薬の影響が長時間にわたることも、副作用のリスクを高めることにつながります」
松田医師は、日本の多くの医師が「薬が基本的に毒」であることを忘れていると説く。
「医大で『治療=薬を出すこと』と教わってきた医師のなかには、薬の効果しか重視せず、その副作用について詳しくない人も多いのが実情です。病気を新たに作り出す副作用に着目すれば、薬はメリットだけでなく毒にもなり得る。そのことを忘れてしまっている医師が多いようです」
松田医師が特に問題視するのは、次のような3つのケースだ。
【1】高齢者が複数の科から大量処方されている場合
【2】精神科、心療内科などで多種類・多量の精神安定剤を長期間処方されている場合
【3】繰り返し生じる蕁麻疹、湿疹、アレルギー性鼻炎、喘息などに対して、抗アレルギー薬やステロイド剤を長期間漫然と処方されている場合
「私が診た患者さんにも、このようなケースが多い。そして、皆さん薬を飲んでいるのに体調不良が続いている。薬の数が少なければ副作用かどうかも判断しやすいが、5種類も6種類も飲むと、何が悪いのか分からなくなってしまう。薬は全部やめるのが理想ですが、服用中の人が薬をやめることで“不安”が増す人もいる。それもまた病気を作る原因になり得ます。そういった心の問題も含め、一部のどうしても外せないものを除き、8~9割くらいは薬を減らせる可能性があると私は考えています。もちろん個人差は大きいですが」
※週刊ポスト2022年12月23日号