【著者インタビュー】永井紗耶子さん/『木挽町のあだ討ち』/新潮社/1870円
【本の内容】
《とざい、とーざい。赤穂浪士も曾我兄弟も、仇討物語は数多かれど、まことその目にしたという人はさほど多くはございますまい。かく言う私、木戸芸者の一八は、間近に見たのでございます。木挽町の仇討は芝居も敵わぬ見事さで、この界隈では知らぬ者のない一大事》(「第一幕 芝居茶屋の場」より)。父親の仇討ちを見事に遂げた菊之助の様子を目撃していた、一八をはじめとする芝居小屋の面々が語っていく。そして明らかになる真相とは。
江戸の芝居小屋を舞台に、「仇討ち」をテーマにした時代小説だ。
菊之助という少年による「仇討ち」はすでに起きている。芝居になりそうな見事な「仇討ち」を、吹き溜まりのような芝居小屋に集まってきた面々はどのように支えたのか。「仇討ち」が成って2年後に、菊之助の縁者の武士に向けて語るというかたちで小説は展開する。
「シミュレーションゲームって、主人公の顔は見えないじゃないですか。小説も、読者が一体化できる人物が一人いたほうが、物語の世界に入りやすいんじゃないかなと思ったんですね。
時代小説は難しい、江戸なんてわからないという人にも読んでほしくて、できるだけハードルを下げるということも目標のひとつでした。一人ずつ主観で語っていくことで、説明が説明っぽくなくなるんじゃないかということも考えました」(永井紗耶子さん・以下同)
聞き手の武士は、江戸に来るのは初めてで、これまで一度も芝居を見たことがない。根ほり葉ほり、いちから相手に尋ねることになる。
「第一幕 芝居茶屋の場」で答えるのは木戸芸者の一八だ。菊之助との出会いはもちろん、木戸芸者とはどういう役割なのか、江戸の芝居小屋とはどういう場所なのか、一八の生い立ちやどのように小屋にたどりついたかも、歯切れよい一八の語りで自然とわかる仕掛けになっている。
一八のほかに菊之助の仇討ちを証言するのは、元武士で立(殺陣)師の与三郎、衣装係を兼ねる女形のほたる、小道具係久蔵の妻お与根、戯作者の金治の4人。芝居小屋での役割や、小屋にたどりつくまでの背景もさまざまだ。
結末をどうするかが初めに決まっていて、そこから逆算して誰を語り手にするかを選び、彼ら彼女らが「何を語るか」は、連載するなかで考えたという。