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「3億円をあなたに預けたい…」SNSでの詐欺メッセージを追い払った60代女性の「同業」というキーワード

SNSから個人情報を探られる(イメージ)

SNSを利用した詐欺が横行している(イメージ)

 SNSを利用して襲いかかってくるさまざまな“詐欺”。体験取材を得意とする女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子が、SNSでの詐欺について、体験談を明かす。

 * * *
 もぅ、しびれちゃう。

「余命宣告をされた私は3億円持っています。それをあなたに預けたい。困っている人に寄付をしてください」というメールが届いたのよ。

 送信者の名前は「吉田玲子」さん。「オーストラリアに拠点を置く72才の未亡人です」とのこと。添えられた写真は絵に描いたような富裕層マダム。さあ、どうする!(笑い)

 彼女とつながったのはFacebookで、6月初めに友達申請が来たの。その名前を友人から以前に聞いていたと勘違いしてつい承認したら、早速よ。

「こんばんは。ストレスのない素敵な一日をお過ごしいただければ幸いです」とメールが来た。この不思議な日本語に私のアンテナが激しく反応したわよ。それで彼女のプロフィールを見たら間違いない。SNS詐欺師、決定!

 SNS詐欺師の特徴はいくつかある。経歴が曖昧。投稿数が少ない。友達がほとんどいない……そりゃそうよ。たくさんの友達と心温まるやり取りをしている詐欺師なんかいるもんかね。

 とはいえ、Facebookを始めたばかりのときは、私もよくわかっていなくてね。

「ハワイの米軍基地でパイロットをしています。離婚して幼い息子と2人で暮らしています」という文に添えられた、トム・クルーズばりの写真に反応しちゃったの。トムはすぐに5才くらいの息子とのツーショットや、トイプードルに頰ずりしている愛らしい写真を次々と送ってきた。

「ぎゃはは。令和のクヒオ大佐じゃん」と大笑いしたわよ。でも笑い転げながらも、いかにもアメリカンな広いリビングで悠然と笑っている彼と息子の間に「もし私が入ったら」という妄想が浮かんでは消えるのはどうしたことか。夢見がちな性格のせいで何度も痛い目に遭っている過去の苦い記憶はどこへやら、「日本語がお上手ですが、日本へは来たことがあるんですか?」などとマジに詰めていたっけ。

 私たちの世代、「国際ロマンス詐欺」といえば「クヒオ大佐」。1970年代から1990年代にかけて、「アメリカ空軍パイロットで、カメハメハ大王やエリザベス女王の親類」と名乗って、約1億円を騙し取った実在の結婚詐欺師だ。その容姿は「こんな男に引っかかる!?」と不思議で仕方がない。

 なのに、それがわが身に起こると話は別。私のトム・クルーズは「あなたは美しい」「素敵な人」という“スイーツ”と、「軍」という国家の“塩”を交互にかけてくる。「いやいや、それはないでしょ」と激しく首を振っていると、不安の穴埋め語の「信頼」「愛しています」「幸せ」「安全」「安心」のシャワー。

 そのとき私が40代だったら、その先へ歩を進めたかもね。でも50代半ばだった私はだんだんシラケて、メールを既読スルーしていたの。すると豹変したトム・クルーズは、激怒と恨み言のオンパレード。「あなたは私を信用できないんですか!」「約束を破りましたね」と、まぁ、そのしつこいこと。

 そのとき、ふと思ったの。(もしかしたらこれがラストチャンスかも。思い切って彼を信じてみようかな。彼の言う通りの方法でお金を送金してみようかな)……そう考えて行動したくなる人、きっといるだろうなと。だって、現実なんて右を見ても左を見ても面白くもかゆくもないもの。このまま老いて死ぬなら、鏡のような水面に石を投げて波紋を見たいと思ったところで誰が責められようか、と。

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