東京都は2022年4月30日から「児童・生徒を教職員等による性暴力から守るための第三者相談窓口」を設置した。都内の中学校長が逮捕されたのは、この窓口への相談がきっかけだった(東京都教育委員会HPより)
この事案について、実際はどのような結末となったのか。筆者が調べたところ、2件のうち一人の教員の実名が記された処分が出されて実名の記録が残っていた。だが、被害届が出されて刑事事件になった様子はない。盗撮は被害者が被害届を出して刑事事件となることがほとんどなので、被害者から警察に届けを出されるように求められる。そのため、Eさんは「被害届を出しにくい雰囲気もあるはず」と、問題の教員が逮捕されていない今の状態に納得がいかないと語気を強める。
もし、盗撮事件の現場が学校内ではなく、加害者が教師で被害者が生徒という関係でなければ、周囲がこれほどモヤモヤさせられることはなかったかもしれない。実際、電車内など公共の場で盗撮が発覚すれば、即逮捕は免れない。最近では「撮影罪」も創設され、被害者の訴えがなくとも罪を問うことだってできる。Eさんが言いたいのは、「被害届を出せば先生が逮捕される」ということを強調されて、被害者なのに被害を訴えることは悪いこと、もしくは「先生を追い込むこと」であるかのような、歪んだ認知を持たされ身動きがとれなくなり、その結果、逮捕されない教員が相次ぎ、被害の回復が置き去りになっているのではないかという懸念だ。
「訴えれば先生の人生は終わってしまう」と念押しされた
事件から5年以上経過しているが、当時のことを思い出すと眠れなくなるというのは、東海地方在住の主婦・近藤圭子さん(仮名・60代)。近藤さんの娘は中学生時代に、部員複数人が部活動の顧問から体罰を受けた。
「実際にニュースになったら大騒ぎになるし、どうするかと警察にも教員にも聞かれる。被害者だから気持ちが弱っているのに、傷ついた心をどうするかということより無神経なことばかり確認されて、学校からは脅されているようにも感じる。もっと騒ぎになったら大変だと警察からも嫌味を言われる、マスコミだってきました」
この事件は地元紙で報じられ、その教員は部活顧問を解任され停職となった。しかしその後、娘を含む2名の女子生徒が、個別にわいせつな行為を受けていたことも、教員本人の供述により発覚した。目の前が真っ暗になり、毎晩娘を抱いて泣いたと振り返るが、その後、母子を追い詰めたのは、わいせつ行為に関してだけは「事前確認」の名目で、警察へ相談する前に何度か学校に呼ばれ「生徒にも先生にも将来がある」とか「訴えれば先生の人生は終わってしまう」と、教頭や教育委員会の担当者から複数回「念押し」されたことだった。
「先生は人気者で、強豪スポーツ部の顧問でもあるから早く復帰させたいと教頭先生がおっしゃった時は、何をお話しされているかわからず、呆然としました。その後、結局、教育委員会の方からも同様のお話を受けましたし、ある先生は、逮捕されればもっと大騒ぎになり、被害者である娘も名前もネットで出回るかもしれないと言われました。こちらのことを心配して親身になって言ってくれたとは思えず、脅迫のようだと感じました」(近藤さん)