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高血圧と薬 Part.1|重大な副作用のリスクもある降圧剤を徹底検証。降圧剤と向き合う。

【Part.1】では副作用などリスクも徹底検証

【Part.1】では副作用などリスクも徹底検証

いよいよ肌寒くなってきた。ブルブル震える寒さで血管は縮こまり、血圧も上がりやすい。医師のなかには「冬だけ薬を増やしましょう」と言う人も──。でも、本当にそれでいいのか。降圧剤を飲み続けることの副作用や、リスクについては当の医師たちの間からも、疑問の声が上がっている。

高血圧と薬 Part.1Part.2Part.3

監修・取材

和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。著書に『80歳の壁』(幻冬舎刊)、『「さびしさ」の正体』(小社刊)などがある。

ナビタスクリニック川崎 谷本哲也医師
多摩ファミリークリニック院長 大橋博樹医師
松田医院和漢堂 松田史彦医師
銀座泰江内科クリニック 泰江慎太郎医師
東都クリニック高血圧専門外来 桑島巖医師

副作用で倒れそのまま寝たきりに

「僕は50歳頃に心臓ドックで心肥大を指摘されたことがきっかけで、2種類の降圧剤を飲み始めました。ところが、心臓ドックの医者に言われた140まで数値を下げたら、頭がぼんやり、フラフラして仕事がおぼつかなくなってしまった。それで薬を減らしたんです」そう語るのは、2022年の年間ベストセラー1位『80歳の壁』の著者で精神科医の和田秀樹医師。世間に「健康寿命」を延ばすことの重要性を知らしめた一人でもある。

患者数約4300万人と推定される高血圧。その治療に用いられる降圧剤は日本国内で最も普及している薬の一つだが、和田医師のようなケースが多く、医師の間でも疑問の声が上がり始めている。ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師が解説する。
「降圧剤の副作用は種類ごとに様々ありますが、共通する代表的なトラブルは、血圧が下がり過ぎることによるめまいやふらつき、それによる脱力感や転倒です。特に高齢の方は喉の渇きに気付きにくく、降圧剤服用時に脱水症が重なると血圧が下がり過ぎて気を失う恐れがあります」

谷本医師にはこんな経験がある。「母が70歳くらいの時、降圧剤を飲んでいて、ふらついて転倒、頭や腕などの打撲傷を起こしてしまいました。母が飲んでいたのは一般的によく使われるカルシウム(Ca)拮抗薬1種類で、量も多くはありませんでした」(同前)

それでも深刻なトラブルが起きたのはなぜか。

「普段は問題なく数値をコントロールできていても、高齢者の場合、たまたま食事が摂れなかった、実は脱水を起こしていたなど、身体の状態によって降圧剤でふらつきを起こすことがあります。
母は頭部の打撲のため硬膜下血腫(脳を覆う一番外側の膜と脳の間に血液が溜まる状態)になりました。幸いこの時は軽症で済みましたが、出血がひどければ脳の圧迫で命に関わり、溜まった血を抜く手術も必要になる病気です」(同前)

高齢者が転倒してケガをする事例は多く、なかには足や骨盤を骨折して、そのまま寝たきりになるケースもある。

起きてしまう過剰投与。増やせばいいは間違い

多摩ファミリークリニック院長・大橋博樹医師のもとを訪れた80代のある女性患者は、同居家族による「服薬管理」がきっかけで降圧剤の“飲み過ぎ”という問題に直面した。
「認知症の症状が出始めたので遠方での1人暮らしをやめ、長女と同居し始めた患者さんです。以前の病院で2種類の降圧剤を処方されていたそうですが、長女が服薬管理を始めたところ、この患者さんは突然、脳貧血を起こし倒れてしまった。救急搬送され、ことなきを得たそうですが、家族がそばにいなければ、深刻な事態になったかもしれません」(大橋医師)

女性患者が1人暮らしの時は薬を決められた用法・用量通りに飲んでいなかった。それが同居後、処方された通りの量を飲んだことで過剰投与となったとみられ、当時の主治医が女性の服薬状況を把握しないまま、「効いていない」と判断して薬を増やしたのではないかと大橋医師は推測する。
「私のクリニックで薬を1種類に減らしたところ、数値が安定しました。患者さんが処方された薬を飲まずに効果が出ないのか、飲んでも効果が十分でないのかを見極めずに降圧剤を増やせば、重大な副作用が出かねません」(同前)

処方されたら飲んでしまう。一時的な診断ではなく「生活」を診る必要がある

「大病院の先生に出してもらった薬だから」と、言われるがまま薬が増えるケースは多い。

「薬やめる科」を掲げる松田医院和漢堂の松田史彦医師は、無意識のうちに“降圧剤依存症”になっていた患者に驚いたという。
「まだ39歳と若い男性患者さんで、総合病院の循環器科で高血圧治療を受けていた。彼のお薬手帳の処方内容(上掲)を見ると、カルシウム拮抗薬にARB、β遮断薬などの降圧剤を5種類、1日9錠も処方されていたのです。医師が血圧の数値ばかりに囚われ、降圧剤を投与しても『効果が出ないから』と、どんどん追加していったと考えられます」

とりわけ問題なのは、多剤併用で生じた副作用が放置されていたことだという。
「1分間に120回の頻脈(正常よりも脈が速い)を起こしていました。ほかにも薬剤性が疑われる症状がありましたが、総合病院の医師は血圧以外の問題をすべて見逃していた」
松田医師が降圧剤3種類(3錠)だけにしたところ頻脈は治まり、種類が多過ぎて毎日の飲む時間や量が不規則になっていたことで安定しなかった血圧も120以下になったという。

降圧剤5種類で「頻脈」になった男性が「減薬」した事例

降圧剤5種類で「頻脈」になった男性が「減薬」した事例

銀座泰江内科クリニックの泰江慎太郎医師のもとに通う70代の男性患者は、夜間の脳梗塞発症による救急搬送がきっかけで大病院にも通い始め、降圧剤の過剰投与の危険にさらされた。「高血圧と糖尿病メインで10年以上、私のクリニックに通っていたのですが、脳梗塞の再発予防のため、血圧の治療は大病院が担当することになりました。しかし、この男性は1日の血圧変動が激しい『早朝高血圧』が特徴でした。

午前は大病院に行き、午後3時半頃に私のクリニックを訪れるのが通院パターンでしたが、大病院で測定する朝の血圧が高いせいか、ある時、降圧剤が1種類追加で処方されたのです」
午後、泰江医師のもとで男性の血圧を測ると、上が100〜110まで下がっていたという。
「本人からは『めまいがしたり、ふらつく』との訴えもありました。自律神経の機能低下や動脈硬化などで血圧の変動が起きやすい高齢者には『家庭血圧』を測ってもらい、1日の変動や季節ごとの違いも見ながら血圧をコントロールしたほうがいい」(同前)

高血圧治療のスペシャリストである東都クリニック高血圧専門外来の桑島巖医師が言う。
「他院で上限まで増やして処方されたのに『血圧が下がらないから』と、さらに降圧剤の処方を求めて当院を受診する患者さんが多い。そうしたケースでは、薬を増やすのではなく別の薬に変更するだけで、血圧が下がることもあります」

エビデンスなき治療現場の闇

血圧が数値目標に達するまで薬を増やされる現状に疑問を呈するのが、前出の和田秀樹医師だ。
「高齢になるほど血圧が上がるのは人体の正常な適応現象で、かつては60代や70代になれば血圧が150や160あるのは当然とされて、適正な収縮時血圧は『年齢プラス90』と言われていました。ところが日本の医療界は外国に合わせて高血圧の基準値を下げようとしています。これは高齢者の健康長寿にとってむしろ危険なことだと思います」(和田医師、以下「 」内同)

日本高血圧学会は2000年に高血圧の基準数値を年齢一律で定めて以降、その数値を下げ続けている。2019年には診療ガイドラインが改訂され、降圧目標が「130mmHg未満」(上=収縮期血圧)と厳格化。より多くの人が“患者”と括られるようになった。結果として現状の診断基準では、70歳を超えると男女ともに約70%が高血圧と診断される。

だが、和田医師は「基準値にこだわるのは意味がない」と指摘する。
「たしかに1980年までの日本人の死因1位は脳卒中で、かつては血圧150くらいで血管が破れる症例が見られました。ですが栄養状態が改善された現在では動脈瘤(動脈の一部が膨らむ状態)がない限り、血圧200でも破れることはない。私自身、血圧200以上を5年ほど放置しても血管に問題はありませんでした。

もちろん個人差はありますが、正常とされる数値を少しでも超えると『異常』と診断され、すぐに薬が処方されるのはどうか。私は日本の医者は不必要な工事を勧める“リフォーム詐欺師”のようだとよく言っています。一部には、降圧剤の効果を調べる研究で数々の改ざんがあったディオバン事件(注:製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤「ディオバン」の臨床研究において、複数の論文不正が発覚し、撤回に追い込まれるなどしたほかノバルティスの社員が統計解析に関与するなど癒着が問題になった)のように製薬会社と医療界が結託しているのではないかと疑う声もあります」

日本の高血圧治療は「エビデンスに基づいていない」と和田医師は主張する。
「そもそも日本には、血圧を下げることで『死亡率が下がる』『病気が減る』ことを示す大規模な比較調査がなく、治療の有無で寿命が変わるかどうか、本当のところは不明です。よく参照されるアメリカの大規模比較調査では、血圧160以上の患者を『治療した群』と『治療していない群』に分けて比較したところ、6年後に『治療した群』の6%、『していない群』の10%が脳卒中になりました。
それをもとに有効だと主張されていますが、このデータは『治療していなくても9割は脳卒中にならない』『治療しても6%は脳卒中になる』とも言える。曖昧なデータは、降圧剤を飲み続ける証拠にはなりません」

高齢者の多剤併用リスク

同時に複数の病院にかかる高齢者は多剤併用リスクが高まる。
「日本の医療は臓器別診療のスタイルで、専門の臓器の状態から病気を診断します。それが一概に悪いとは言えませんが、高血圧と診断される高齢者は複数の病気を抱えて3〜4の科にかかることが少なくない。その際に各科の医師が自分の専門だけを診て、ほかの病院や医師の処方の確認を怠るケースがある。必然的に患者は大量の薬を服用することになり、副作用のリスクが高まります」

また和田医師は降圧剤を服用後の「車の運転」にも注意を促す。
「私は健康長寿を維持するため、高齢者でも能力があれば免許を返納しないで運転を続けるほうがいいとの考えです。また免許を返納すると、6年後の要介護リスクは2.2倍になるとの研究もあります。
ただしある種の降圧剤を飲むとふらつきが生じて、運転中の事故につながる恐れが生じる。鳥取大学はカルベジロールやジルチアゼムなどの降圧剤を『運転注意薬』としているので本当に気をつけてほしい」

「血圧を下げる=健康」ではない

本来なら症状を改善するはずの高血圧治療が、逆に患者の身の安全を脅かす──。その背景には、日本の医療が抱える構造的な問題がある。
「超高齢社会には患者をトータルに診断する総合医療医が不可欠で、現実に大学病院には総合診療科がありますが、ほとんどの病院でそのスタッフの数は増えていません。かつ医学部は狭い世界で、様々な問題点を指摘して改革を訴える人材は疎まれて、イエスマンばかり重宝される。現在も根強い医療ムラの閉鎖的な環境は患者に不利益をもたらします」

高血圧を巡る様々な問題が指摘されるなか、高齢者が健康寿命を延ばすにはどうすべきか。
「血圧の数値ではなく、ストレスの有無が重要だと思っています。数値や医師の診断に振り回されることなく、自分の考えで快適に生きたほうがいいというのが基本スタンスです。
血圧を下げれば健康になる、というのは確たる証拠のない“信仰”。そこから自由になり、降圧剤の服用に気をつけながら楽しんで生きることが、私の提案する“健康長寿法”です」

※週刊ポスト2023年11月10日号

Part.2 へつづく

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