3月も中旬に入り、もうすぐ桜の季節がやってくる。ぽかぽかしたムードのなかで読書を楽しめば、人生もさらに豊かになるはず。春を前におすすめの新刊を紹介する。
『冬に子供が生まれる』/佐藤正午/小学館/1980円
佐渡君が付けたあだ名「マルユウ」(丸田優)と「マルセイ」(丸田誠一郎)。彼らは8歳でUFOを見た子供達として有名になり、10年後同現場で事故に遭う。交流も途絶えたその20年後、マルユウは「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」という予言メッセージを受け取る。超常的な出来事をリアルに落とし込むワザが著者の真骨頂。周囲に理解されない純愛小説としても胸がざわつく。
『成瀬は信じた道をいく』/宮島未奈/新潮社/1760円
幼馴染みの島崎とお笑いコンビ「ゼゼカラ」(膳所から世界への略)を組む成瀬あかり史第2弾。ゼゼカラに憧れる小学生、正しさ好き(クレーマーとも言う)の若い主婦、あかりと共に観光大使になる美女など、平板な地方都市に色が付くのがこのシリーズの美点。島崎は東京の私大へ、あかりは京大へ。成瀬あかりのジェンダーレスな喋り方にご注目を。これ、一種の発明なのでは?
『百人一首 編纂がひらく小宇宙』/田渕句美子遮炎岩波新書/968円
定説とは“今のところ”の意。学問は常に発展途上で、藤原定家が撰者とされる百人一首は後人による改編であるというのが著者の最新研究報告だ。では誰が?と名指しを急ぐのは拙速で、本書の魅力はアンソロジーの奥義を説く所。百人一首は歌のお手本集であり、時が移ろう四季の歌であり、生活誌や文化史でもあると。読みやすいが細部には教養がみっしり。再読を重ねたい。
『月下のサクラ』/柚月裕子/徳間文庫/902円
前作で親友を殺された森口泉。県警一般職員の彼女は無念の内に県警を辞し、なんと警察官採用試験に挑む。30歳の新人警官誕生。シリーズ第2弾の本書は前作同様、現実の事件との類似を想起させ、会計課の金庫から1億円が消えた内部事件をIT技術で追いかける。上司の黒瀬がかなりいい男。ちなみにサクラとは公安警察を指す隠語。“泉挫けるな”との思いで一気に読了する。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年3月21日号