「子どもが自分で人生を選択できるようになること」──東京大学客員研究員で医師の柳澤綾子さんは15年以上臨床現場の最前線に立ちながら、大学等でも研究し、海外医学専門誌(査読付)に論文を投稿。そんな柳澤さんが、あらゆるジャンルの科学論文を読み漁った結果、子どもが「自分は幸せだと思えるためにできること」には答えがあるという結論に辿り着きました。
今回お伝えしたいのは失敗を怖がるようになる褒め方の落とし穴と、子どもに先回りするヘリコプターペアレントの弊害。柳澤さんがエビデンスに基づいて厳選した世界の最新研究の中から、現時点で最も確かな親の関わり方を1冊にまとめた『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)より、一部抜粋、再構成してお届けします。 【全3回の第2回。第1回から読む】
失敗を怖がるようになる褒め方の落とし穴
「うちの子が失敗を過度に恐れているような気がします。『失敗するならやらない方がいい』と言って、授業中にも手を挙げなくなってしまいました。昔はもっと積極性のある子だったのですが、どうしたらいいでしょうか?」
「間違えたら恥ずかしい」「バカにされてしまうかもしれない」「できないと思われたくない」など、成長過程で失敗を恐れるようになるのは生物としても自然なことです。しかし過度な方向に進んでしまうと、GRITを伸ばす上ではデメリットになってしまうこともあります。
GRITとは、「やり抜く力」または「粘る力」と定義されています。以下の4つの言葉の頭文字から構成されている概念です。
・Guts(度胸):困難なことに立ち向かう
・Resilience(復元力):失敗しても諦めずに続ける
・Initiative(自発性):自分で目標を見据える
・Tenacity(執念):最後までやり遂げる
社会的に成功している人たちは、困難な状況に遭ってもくじけない強い心を持っているのです。
今回は、子どもが「失敗した」と感じる心のプロセスと、その考え方を学ぶことから始めましょう。
子どもを褒める場合には大まかに二通りの褒め方があるといわれています。
(1)子どもがもともと持っている「才能」や「結果」を褒める
(2)子どもが行ってきた「努力」や「過程」を褒める
(1)の「才能」や「結果」を褒められた場合から説明しましょう。「あなたは私に似て足が速くてすごいわね」「いつも一番でえらいわね」といったように、才能や結果を褒められると、子どもは短期的にはものすごく嬉しい気持ちになります。
しかし、「速く走れなくなってしまったら僕はすごくない」「一番になれなかったら私はすごくない」という刷り込みを与えることになってしまう場合があり、子どもが結果にこだわる一因となりかねません。一番になれなかったことを隠したり、逆に一番になれなそうな戦いには初めからチャレンジしなくなったりするのです。
(2)の「努力」や「過程」を褒められている場合、「結果はそれほど大事ではない」「チャレンジすることがいいことなんだ」と思えれば、失敗しようがうまくいこうが、「チャレンジ自体を褒めてもらえるならどんどん挑戦しよう」という気持ちになってくれます。これこそが、GRITを伸ばすために大事なポイントなのです。