いくつもの山を乗り越えてきた笑さん・航さん夫婦、そして希ちゃん
《18トリソミーで横隔膜ヘルニア。こうした赤ちゃんを治療してくれる病院はないだろうか。笑は必死で検索した。18トリソミーの子を育てた親のブログがけっこう見つかる。体験談は心強い。淡泊な医師の説明よりも、はるかに心に響く。必死になって我が子を育てている同じような境遇の親がいることが、それだけで心の支えになった。》
笑さんはあるブログと出会う。「さくらちゃんのママ」が書いたものだ。さくらちゃんは18トリソミーで横隔膜ヘルニアで、「手術を受けた」と書いてある。
《そのブログには病院名が書かれていなかった。笑は過去に遡ってどんどんブログを読み進めた。深夜になっていた。
(中略)
「○○病院」としか書かれていない。病院の中にはタリーズコーヒーがあるとの記述があった。しかしそれでは探しようがない。一体どこだろう?》
笑さんはわずかなヒントをたぐり寄せながら、結局、その病院の特定に至るのだが、一連の行程は、松永さんの著書のタイトルにある通り「ドキュメント」だ。
「妊娠は継続します」
その後、笑さんは先に述べた病院で羊水検査を受けた。診察室で硬い表情の医師から説明を受けた。
《「診断は18トリソミーです。これで確定です」
「……」
笑は何も言えなかった。しかし、別にショックはなかった。そんなことは前回の超音波検査ですでに分かっている。今さら確定と言われても動じなかった。
(それがどうした)
笑は冷静だった。18トリソミーであろうがなかろうが、私たち夫婦の可愛い赤ちゃんには変わりがない。20週になってもお腹の中で生きているなんてすごいじゃないか。なんて強い子なの。笑は、親として子どもにできる限りのことをしてあげたいと心の中で声を上げた。
医師はそれ以上、何も説明しなかった。そして質問を浴びせてきた。
「どうしますか? 妊娠は継続しますか?」
「継続します」
笑がそう言うと、医師は電子カルテのPCに向かって文字をカタカタと打ち込んだ。「妊娠継続を希望」と書いているのが見えた。》
そして今度は、医師の態度を冷めた目で見ていた笑さんが「転院」を切り出した。
転院という言葉を出すと、医師は「え、うちで生まないの?」と軽く身を乗り出してきた。笑さんは、これで医師は気が楽になったのだろうと思ったという。
「医師にもよりますが、経験を積んだ医師ほど“先が見えてしまう”ということがあります。だから、これ以上、妊婦さんを苦しませるよりは……と思ってしまうことがある。
その点、若い医師ほど懸命に命を助けようとする。若い医師は純粋なので、医師の義務範囲を超えて、それ以上の力を出そうとする。
どんな医師や医療施設を選ぶかはとても大切です。笑さんご夫婦は自ら病院を選び直し、転院先でそうした医師団に出会えたのです」