瑠奈ファーストの家族
浩子被告は公判の中で、事件後の早い段階で家族に対する警察の尾行に気づいたと語った。
「そう遠くない時期に瑠奈が逮捕されると思っていた」として、警察が来るまでの短い時間を、これまで通り家族と過ごすことを選んだという。
事件が起こったのは2023年7月2日。北海道警察は同月の24日に、瑠奈被告と修被告を死体遺棄などの疑いで逮捕した。
その直前に、家族が訪れたと見られる飲食店の店主に話を聞くことができた。
「逮捕の報道があったのが、月曜か火曜日だったと思います(24日は月曜日)。田村さんはその直前、土曜日だったと思うけど、うちにいらしてくれました。朝の10時くらいに奥様(浩子被告)が、お店のドアを開けて、入ってきたんです。うちはずっと10時開店だったんですけど、ちょうどその頃から10時30分に開店時間を変更してて、『ごめんなさい、まだオープン前なんですよ』って、声をかけたんです」
田村修と浩子夫妻は、この店の10年来の常連客だ。「月に2回くらいは来てくれていた」(店主)という。
「いつも奥様はメガネをかけていらっしゃるんですけど、その日はメガネをしてなくて、誰だろうって始めは思ったんですけど、お声を聞いているうちに、あ、田村さんか、と分かった。『10時半過ぎに、また来ていただければ』とお話したんですけど、予定があったのか、『それじゃ、また日を改めます』とおっしゃって、その日はそのままでした」(店主)
この店は、田村被告の自宅から、車で数十分の場所にある。いつも修被告の運転する車で来ていた。イートインの場合は、夫婦揃って店に入ってくるのだが、その日は、浩子被告だけが現れた。修被告は外に停めた車で待っていたのだろう。
「だから、テイクアウトをするつもりだったんだろうな、って、後からスタッフと話したんですよ。この先に景色のいい高台の公園があるんですけど、そこにうちの商品を持って、ご家族でいらっしゃるのかな、なんて、そんなふうに話したのを覚えています」(同前)
公判に出てきた話にあるように、田村一家は、逮捕の直前も確かに、“いつも通り”の生活を続けていたようだ。
「田村さんは御夫婦だけで来ることが多かったのですが、時々娘さんもいっしょに来ることがありました。とても仲のいい親子に見えましたよ。ショーケースを眺めながら、ご両親が『これはどう?』とか『あれがいいんじゃない』とか、すごく気を使っているようなね。そんな感じでした」(同前)
瑠奈被告は、両親を奴隷のように扱い、家族は『瑠奈ファースト』の生活を強いられていた。仲の良い家族に見えたのは、『瑠奈ファースト』のおかげなのかもしれない。
■取材・文/江波旬