10月目前となってやっと秋らしくなってきたこの季節。“読書の秋”を満喫するための、おすすめの新刊4冊を紹介する。
女の35歳は転機のお年頃。谷原京子が出した愛と葛藤の答えとは?
『さらば!店長がバカすぎて』早見和真/角川春樹事務所/1760円
吉祥寺の武蔵野書店を舞台にしたシリーズ第3弾。カリスマ書店員・谷原京子は憂鬱だ。同志の同僚は結婚で職場を去り、店長には親衛隊のようなバイトの子たちが群がっているからだ。そんな中、店長に転機が訪れ、京子にも同じ本を棚から取ろうとして指先が触れ合うという理想の出会いが訪れる。なぜ街にリアル書店が必要なのか、店長の答えにグッと来て、感涙にむせぶ。
妻に先立たれて独居する78歳の父。自然豊かな故郷で父と暮らす
『あなたが僕の父』小野寺史宜/双葉社/1870円
那須野富生、40歳、館山出身。東京の大学を出て東京で就職した。父の様子が心配で帰省すると気になること多々。テレワークが可能であることを幸いに、富生は父との同居を決意する。父と息子の関係は米国文学などではオス同士の闘争だが、日本ではそうではない。淡かった親子の距離が縮まっていく過程を丁寧に描く。個人的経験で言えば最後の穏やかな期間。祝福したくなった。
生放送や講演の仕事もする娘が、独居の父親の異変に気づくとき
『介護未満の父に起きたこと』ジェーン・スー/新潮新書/990円
筋違いの感想だが、東京出身者って大変。地方出身者と違って親のささいな変化を受信してしまう。独居する著者の御尊父82歳から87歳までの記録で、大掃除、家事代行サービス導入、コロナ禍のワクチン接種や栄養バランスの取れた食事指導など、自称“問題解決好き”の娘がUber Eatsなども活用しつつ奔走する。子供が書く介護未満の親の様子は新分野。貴重な手引き書だ。
年に1週間しか会えない恋人同士。想いは時を重ねて永遠になる
『ひまわりは恋の形』宇山佳佑/小学館文庫/891円
桜の花びらを集めるバイトを引き受けた葵井日向。依頼主の雪野雫と会って彼は一目で彼女に恋をする。しかし雫は奇妙な体質だった。1年のうち1週間しか目覚めず、太陽の下は歩けない。人を想うことの深さ、時を超えて人を愛することの強靱さをエモーショナルに描く。贈る本数でひまわりの花言葉が違うとは知らなかった。通算998本目のひまわりには、永遠が宿っている。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年10月9日号