国際情報

仏新大統領は民主党同様に税金バラ撒き始めると大前研一氏

 フランスのオランド新大統領はサルコジ前大統領の緊縮財政路線を批判し、成長戦略を掲げて当選した。この先、フランスはどうなるのか? 大前研一氏は、オランド氏には期待が持てないと指摘する。以下は、大前氏の解説だ。

 * * *
 フランスの大統領選挙とギリシャの総選挙で、緊縮財政策を掲げた前政権が敗北した。これは、皮肉を込めていえば、日本にとっては、都合のよい結果だったと思う。

 なぜなら、先に野田政権が崩壊して消費税の5%増税にさえ失敗したとなれば、世界的な「日本売り」が始まってパニックが起きてしまうが、フランスとギリシャのおかげで、このあと野田政権が倒れても“ワン・オブ・ゼム”となり、ショックが和らぐからである。

 では、この先、ギリシャはともかくフランスはどうなるのか? 

 オランド新大統領に期待は持てないと思う。彼はサルコジ前大統領の緊縮財政路線を批判し、成長戦略を掲げて当選した。緊縮財政より経済成長を優先することで雇用が増え、税収も増加して財政再建が実現できると主張して一般大衆の支持を得たわけだ。かつての自民党の「上げ潮派」と同じ論法である。

 しかし、成長戦略は「言うは易く、行なうは難し」である。第二次大戦後の世界中の歴史を見ても、成長戦略をやり抜いた政治家は見当たらない。成長戦略を実行して成功したかのように思われている人は、実は運が良かっただけである。

「経済成長のための方程式」は、非常にはっきりしている。それは規制撤廃をして世界中からカネと企業とヒトを呼び込むことである。

 そうすると、効率が悪くて競争力のない国内の既存企業は倒産し、失業率が悪化する。失業が増えると賃金が低下し、海外からの投資が増加して雇用が増え始める。やがて海外から来た企業に雇用された人たちが需要を生み、その需要から副次的な産業が育って、新しい雇用が創出されていくのである。

 ただし、このプロセスは少なく見積もっても10年以上、フランスのような成熟した老大国では15年くらいかかる。その過程では、失業がひたすら増える。規制撤廃を行なった本人の在任中には効果が表われない。

 たとえば、アメリカのレーガン大統領は小さな政府と規制撤廃の「レーガン革命」を実行したが、その効果が出て景気が良くなったのは15年後のクリントン大統領の時代だった。

 イギリスのサッチャー首相が同様の改革を断行した時も、やはり効果が出るまでに15年かかっている。だからレーガンもサッチャーも任期中は失業が増え続け、最後は石もて追われている。

 あるいは、韓国の金大中大統領は1997年のIMF通貨危機の時に、規制撤廃、IT産業奨励、ビッグディール政策(財閥間の事業交換、統廃合)、英語力の強化によって経済の立て直しを図った。その成果が出たのは、やはり10年以上経過して現在の李明博大統領時代になってからのことだ。

 つまり、もしオランド新大統領が、レーガン大統領やサッチャー首相、金大中大統領のような規制撤廃による成長戦略を実行したとしても、効果が出てくるのは15年後なのだ。となると、フランス大統領の任期は1期5年で連続2期10年までだから、再選されても間に合わない。

 そういう政策を、すでに失業率が10%以上、25歳以下の若年層の失業率が25%近くに達している状況下でオランド大統領が選択できるかといえば、私は無理だと思う。

 同じ社会党出身のミッテラン大統領には経済学者のジャック・アタリ氏ら優秀なアドバイザーがいたが、そのような人材を起用しなければ、日本の民主党政権と同じように、小さな政府と成長戦略を標榜して政権を取っても、結局、税金を使って無節操なバラ撒きを始めるのではないだろうか。

※週刊ポスト2012年6月8日号

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン