国内

大阪西成区 「生活保護受ける」ことは「福祉に入る」という

 4人に1人が生活保護受給者といわれる大阪市西成区のあいりん地区。ここで「保護」を受けている人はどこで、何をしてきたのか。いま、どう暮らしているのか。作家の山藤章一郎氏が報告する。

 * * *
 6月の雨のあいま、その店の前を、当方と、次の3人組が通りがかった。西成区で生活保護を受けている60代のふたりのおっちゃんチョキ氏、パー氏と、グー姐さんである。
 
 これから、同じ区内の〈かっぱ寿司〉へ一年半ぶりの贅沢に行く。おっちゃんたちはサンダル、姐さんはビニール靴。ゆっくり、路地から路地、線路、国道をまたいで行く道すがらのインタビュー。

 チョキ氏:「玉出、安いわな。5食パックサッポロ一番塩ラーメン298円や。毎日、それにキャベツ入れて食べてる。100円のかき揚げで、うどんの時もあるがな。皿ないんで、フライパン、鍋から直接や。しかし今日は、回転寿司。めったにないごっつぉですわ」

 歯がないパー氏:「わし、結核で…働けん……世間さまに申しわけ立たん…駅の掃除…2000円な」。何をいってるのか、分からん。

 グー姐さん:「30年ほど前に離婚して。和食と中華のホール係で、働いてきました。けど、血圧低いしC型肝炎。毎日病院通いです。胆のう手術もしましてな。区に相談したら、ほな生活保護受けえというてくれまして。切り詰め切り詰めの、生活です。

 昼ごはんは食パン1枚に決めて。マーガリンつけて。夕飯は、いまはナスビやね。〈玉出〉で4本200円、麻婆ナスの素も買うてきて2回分つくれます。

 夕飯終わったら、安売り狙うてまた〈玉出〉に行きます。7時くらいから値引き始まるの。肉、魚に半額シール貼ってある。

 5枚切り食パンも、水、土曜は、半額の125円になるから、2斤買うてきて冷蔵庫に保管してな」

 おっちゃんたちも姐さんも、毎月1日に12万円の〈生活保護費〉が西成区から振り込まれる。 63歳のチョキ氏は、大阪に生まれて育ち、生涯独身である。中央市場で食品配送をし、40歳から日雇いの建築現場に出た。

「その時々で、景気のええ仕事選んできて」50歳のとき、昔の交通事故・脾臓破裂の後遺症が出た。左脚が腫れ、歩けない。新大阪駅に近い路上、ナンバープレートをはずした車の中で寝食した。期限切れの弁当でしのいだ。

 病院で、生活保護を勧められた。脚が回復してきて、1日3500円の公園清掃に就いた。毎月6万円になった。足りない6~7万円は「福祉に入って」息をついだ。いまは、清掃仕事もない。12万円を支給されている。

 おっちゃんたちも、姐さんも「生活保護を受ける」というコトバは使わない。「福祉に入る」という。チョキ氏「1日1000円の生活が目安やね。朝6時に起きて、〈玉出〉で買うてきたひとつ100円、たまに半額になる菓子パン1個に牛乳つけたんが朝飯。それから図書館で借りてきた本読む。五木寛之が好きやね」

※週刊ポスト2012年7月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

世界陸上の最終日に臨席された天皇皇后両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《雅子さまの優美な“かさね色目”コーデ》土砂降りのなか披露したライトグリーンの“親子リンクコーデ” 専門家が解説「江戸紫のスカーフとの日本伝統的な色合わせが秀逸」
NEWSポストセブン
当時の事件現場と野津英滉被告(左・時事通信フォト)
【宝塚ボーガン殺人事件】頭蓋骨の中でも比較的柔らかい側頭部を狙い、ボーガンの矢の命中率を調査 初公判で分かった被告のおぞましい計画
週刊ポスト
田久保真紀市長が目論む「逆転戦略」は通用するのか(時事通信フォト)
《続く大混乱》不信任決議で市議会を解散した伊東市の田久保真紀市長 支援者が明かす逆転戦略「告発した市議などを虚偽告発等罪で逆に訴える」
週刊ポスト
古い自民党長老政治の再生産か(左から岸田文雄氏、林芳正氏、加藤勝信氏/時事通信フォト)
《自民党総裁選》小泉陣営に飛び交う「進次郞内閣」の閣僚・党役員人事リスト 岸田文雄氏が副総理兼外相、林芳正氏は財務相、官房長官は加藤勝信氏が“内閣の骨格”か
週刊ポスト
2022年市長選当選時の田中甲・市川市長
田中甲・市川市長、政治資金報告書の会計責任者に“勝手に元秘書の名義を使った”疑惑 元秘書は「全く知らない」、市長は「連絡を取っていますよ。私は」と証言に食い違い
週刊ポスト
青ヶ島で生まれ育った佐々木加絵さん(本人提供)
「妊活して子どもをたくさん産みたい…」青ヶ島在住の新婚女性が語る“日本一人口が少ない村”での子育て、結婚、そして移住のリアル
NEWSポストセブン
祭りに参加した真矢と妻の石黒彩
《夫にピッタリ寄り添う元モー娘。の石黒彩》“スマホの顔認証も難しい”脳腫瘍の「LUNA SEA」真矢と「祭り」で見せた夫婦愛、実兄が激白「彩ちゃんからは家族写真が…」
NEWSポストセブン
高市早苗氏はどうなるのか(写真/EPA=時事)
自民党総裁選を優位に進める小泉進次郎氏、悩ましいのはライバル高市早苗氏の処遇 実権をもたない“名ばかり幹事長”に祭りあげる構想も
週刊ポスト
群馬県前橋市の小川晶市長(42)が部下とラブホテルに訪れていることがわかった(左/共同通信)
《目撃者が明かす一部始終》「後ろめたいことがある人の行動に見えた」前橋・女性市長の“ラブホ通い詰め”目撃談、市議会は「辞職勧告」「続投へのエール」で分断も
NEWSポストセブン
本誌記者の直撃に答える田中甲・市長
【ダミー出馬疑惑】田中甲・市川市長、選挙でライバル女性候補潰しのために“ダミー”の対立女性候補を“レンタル”で擁立した疑惑浮上 当の女性は「頼まれて出馬したのか」に「イエス」と回答
週刊ポスト
崖っぷちの同級生コンビ(左から坂本勇人、田中将大)
巨人・阿部監督を悩ませる田中将大&坂本勇人のベテラン同級生コンビ 士気に関わる“来季の年俸” OBは「チームの足かせになっているのは間違いない」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 「進次郎内閣」の長老支配「閣僚名簿」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「進次郎内閣」の長老支配「閣僚名簿」ほか
NEWSポストセブン