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官邸デモは「政権打倒が目的でない」と主催者の一人Misao氏

「原発再稼働反対」を旗印にしたデモは、首相官邸前に毎週10数万人を動員するまでに巨大化し、ついに首相との面会目前まで辿りついた。このデモには明確なリーダーが存在せず、左翼団体の影もない。緩やかに個人が連帯することで規模を拡大してきたが、そうしたデモの特性は、すべて主催者の戦略だった。

 デモ主催者の名は「Misao Redwolf」という。長い髪を束ね、二の腕に彫られた大きなタトゥーがトレードマークの女性イラストレーターは、前例のない国民運動の戦略をどう描き、その目標をどこに据えているのか。“元ジャーナリスト”で自由報道協会代表の上杉隆氏に語った。

 * * *
 官邸前デモを主催するのは、反原発を訴えるグループや個人が連携した「首都圏反原発連合」(昨年9月結成)というネットワークである。この中のグループの一つ、NO NUKES MORE HEARTSの主宰を務めるMisao氏は、イラストレーターをしながら、5年ほど前から反原発の活動を始め、現在では官邸前デモを呼びかける中心人物となった。

 3月から始まった官邸前デモは、毎週金曜日の午後6時から8時まで行なわれており、老人から子供連れの主婦、会社帰りのサラリーマンやOLなど、多様な顔ぶれが参加する。「警察の誘導に従う」「8時になったらきっちり帰る」など、これまでの反体制デモとは一線を画した活動が注目を集める。

 だが、一方では規模の拡大に伴い、警察とのいざこざや、「野田政権打倒」などのメッセージが目立ち始めてもいる。このデモはどこに向かうのか。Misao氏に訊いた。

――どうして官邸前でデモしようと思ったんですか?

Misao:原発再稼働に関しては、世論調査でも反対が多いし、反対の署名も何百万人も集まっていた。でも、私が抗議する上で大事だなと思うのは、その数が可視化されるということだと思うんです。

 例えば、自分が何かに抗議されている者とした場合、「あなたのことを嫌ってるのが20万人いるよ」っていわれても、ああ、そうですかというだけ。ただ、それが可視化された状態で20万人に直接バーッと家の前まで来られたら、やっぱり、圧力を感じますよね。心理的に絶対そうなんですよ。だから、目に見えてるっていうのがすごい大事なんです。

 官邸前抗議を始めたのは、大飯原発の再稼働について、3月末に最終的な政治判断を4閣僚(野田首相、細野豪志・原発相、枝野幸男・経産相、藤村修・官房長官)ですることになったことがきっかけです。

 4閣僚会議は官邸で行なわれたので、関東に住んでる私たちができる抗議はもう官邸前しかないな、と。そうして、試行錯誤しながら毎週やるようになった。いまでは毎週金曜日というのが定着していますが、それも決まっていたわけじゃなくて、金曜のアフターファイブというのが、一番、気分的に行きやすいのかなって。
 
 私自身、2007年頃から反原発運動を始めたばかりの新参者だし、いまデモを主催する反原発連合に入っている13のグループのうち、11団体は3.11以降にデモを始めた人たちです。みな一般の感覚に近いので、とにかく普通の人たちが来やすい雰囲気を心がけました。

――参加者が爆発的に増えたのは、6月に再稼働が決まったときでした。

Misao:そうなんですよ。それまでは多分、さすがに再稼働しないだろうと思ってた人もいたんじゃないかな。去年後半ぐらいは、周りにも「もう動かさないと思うんだよね」って意見も多かった。私たちはあの人たちのいかさま具合を知ってるから、「そんなに甘くないから」っていってたけど、運動自体は落ち込んでいた。それがやっぱり再稼働となったことで、一気に怒りが噴出したのだと思います。

――インターネットというツールも大きいと思うんですが、これは戦略的に?

Misao:みんな当たり前のようにツイッターやってますから。ただ、ツイッターのなかでしか情報が回ってなかった4~5月頃は、参加者は2000人にも届かなかった。6月以降、それが口コミだとか著名人の呼びかけだとかで広がり、ネットに還元されるというミクスチャー現象が起きて、一気に数万人規模になったんです。

――「再稼働反対」のシングルイシューに限定したことが大きい。原発推進の学者さんや東電の中にだって、今回の再稼働に反対という人はいるし、大飯が止まればゴールだから、運動そのものが自己目的化してしまうこともない。

Misao:参加者のなかには福島からの避難者のこととか、子供たちの被曝のこととか、自分たちのイシューをかぶせようとする人もいます。私も被曝の問題は重大だと思ってますけど、まず大飯の再稼働を止めることで、大きな風穴を開けたい。

「野田政権打倒」を掲げる人たちもいるけど、私たちはそれが目的ではない。代替案として誰々を首相にしろと、そこまでいえるのなら具体性が出てくるけど、具体的なイシューがないと焦点がぼやけてきて、運動に酔うだけの人が増える気がする。だって内閣を打倒して運動が収束して、いざ他の内閣になったら、もっと原発が悪いことになる可能性だってあるじゃないですか。

 野田政権打倒を掲げる人たちは、目的をすり替えようとしている。7月29日の国会包囲のときに「野田政権打倒」って大きなプラカードが出たんですけど、あれをやったのは左翼の活動家ですよ、たぶん。

※週刊ポスト2012年8月31日号

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