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真性社畜だった常見陽平氏「若者よ、社畜をバカにするな」

 様々な話題がネットでは日々生まれていくが、今年の話題といえば、「ノマド」(場所に縛られず仕事をする人)と「セルフブランディング」(自分のブランド化)がある。その実態はどんなものか。人材コンサルタントの常見陽平氏が解説する。

 * * *
「セルフブランディング」の重要性を喧伝する層は、ノマド提唱者と重なっている。

 セルフブランディングとは、簡単に言えば「自分自身のブランド化」という意味だ。その方法として、今年春に『情熱大陸』(TBS系)でノマドワークの実践者として紹介された安藤美冬氏(32)は、「クリエイティブな仕事をしているなら、名刺に『足立区』と書くな」「自宅のプリンターで名刺を作るな」と言っている。足立区に失礼ではないかというツッコミはさておき、名刺1枚でブランディングができるとは何ともお手軽である。

 さらに、セルフブランディングでは肩書を自由に作るのも流行りで、「○○コンサルタント」とか「○○プランナー」とかを職種名にする者が多い。「ライフスタイルクリエイター」というわけのわからない肩書を見たことがあるが、最高に笑ったのは「職業:自分」という肩書だ。

 ツイッターやフェイスブックもセルフブランディングの道具で、ノマドも若手サラリーマンもプロフィールを完璧に作り込もうとする。ある著名なノマドはプロフィールで、会社員時代に所属する課で受賞した社長賞を自分個人が受賞したかのように書いている。これでは、ソーシャルネットではなく、サショウ(詐称)ネットである。

 実際、SNSは都合の悪い部分を隠して、自分のいい部分だけをアピールできるので、人を化けさせる効果がある。だから、ノマドの人々は「尖ったことやウケることを書かなければ」という強迫観念でSNSに取り組むのだが、それを書き続けていたら、発言がいつの間にかネトウヨ的になっていたりすることもある。

 最短距離でブランドを確立したい気持ちはわからないでもないが、本来、自分をブランド化するには、取引先に「予想以上のクオリティだった」「料金以上の価値があった」という満足を与え、信頼と実績を築くしか方法はない。

 そもそもセルフブランディングという言葉を使っていること自体が、ブランディングを何もわかっていない証拠で、名刺だの肩書だので自分を大きく見せようとするのは、単なる“ごっこ遊び”だ。

 多くのノマドは、働くことについてこうした“イタい”誤解をしている。あまりにも甘ちゃんなのである。しかも、「会社はオワコン」「個と個のつながり」といった言葉の裏には、企業社会=悪という先入観があり、彼らはいずれ「会社のない理想社会」がやってくるという幻想に囚われている。私はこれを「新・ユートピア社会主義」と呼んでいる。

 しかし、いったいいつ、会社が終わったのか。ノマドがありがたがって使っているMacBook Airを作るアップルは「会社」だが、いずれノマドが「個と個のつながり」とやらで、こういう製品を作ってくれるのか。

 会社というのは最高のビジネススクールである。希望する職種に就けなかったり、嫌な体験もするが、結果、仕事の流儀を学び、自分の適性に気づき、実力を身につけることができる場所なのである。

 本物のノマドになるのは、会社の表も裏も知り尽くし、辛い思いもたくさんして、フリーでやっていく自信がついてからだ。

 若者よ、「社畜をバカにするな」と言いたい。真性社畜だった私からの檄文だ。

※SAPIO2012年11月号

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