ライフ

低炭水化物ダイエット 「死亡率高まる?」を疑問視する声も

食事で重要なのはトータルバランス

「低炭水化物ダイエット」を巡る報道が混乱している。「逆に死亡率が上がる」という記事もあり、気になるところだ。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 このところ、「死亡率高まる?」などと全国紙を含めた各新聞紙上をにぎわせている、厚生労働省の研究班が発表した低炭水化物ダイエットの危険性。初めて目にしたのは、先週末だった。見出しは以下の通り。

「糖質制限ダイエット、長期は危険? 死亡率高まる恐れ」。その内容は「糖質制限食を5年以上続けると、死亡率が高くなるかもしれないとする解析結果」というもの。翌日以降、他紙も追いかけるように報道したがどうにも引っかかる。統計学をベースにした疫学調査なのに「死亡率が高くなるかもしれない」という歯切れの悪い内容だ。

「27万人を対象に行われた5~26年の追跡調査を元にした」という、この論文は既に世界に発表された9件の論文を研究班が解析したもの。医療関係者用の複数の検索エンジンで、“low-carbohydrate diet”や“carbohydrate-restricted diet”などのキーワードで関連する研究論文を選択したという。

 決して英語が得意ではないので、大学の医療研究事情に詳しい複数の知人にこの論文について聞いてみると、「まず” Low-Carbohydrate Diets“は『低糖質ダイエット』と訳さないほうがいい」という。一般に、炭水化物と糖質は同義で使われることが多いが、「糖質」は糖類(砂糖<二糖類>やブドウ糖<単糖類>など)+デンプン質(多糖類)で、その糖質に食物繊維が加わったものが「炭水化物」と定義されることが多い。

 しかもPlos Oneの論文では「炭水化物制限」自体が死亡率が上がる原因とは特定されていない。論文内では炭水化物制限ダイエットをしている人の食生活を指して「繊維や果物の摂取量が少なくなる傾向がある」、「動物性タンパク質、脂肪、コレステロールの摂取量が増加しがち」と言及している。そしてこうした食傾向が「脳疾患などの危険因子である」とも。つまり、野菜の摂取量が減り、肉ばかりを食べる傾向が問題だというのだ。

 2010年にハーバード大学の研究チームが発表した「低炭水化物食を摂取した13万人、20~26年の追跡調査」では調査対象者の食事内容にまで踏み込んでいる。動物性脂肪・タンパク質摂取群と植物性脂肪・タンパク質摂取群にわけて解析すると、死亡リスクが高くなったのは動物性脂肪・タンパク質摂取群のみ。植物性脂肪・タンパク質を中心とした低炭水化物ダイエットを行うと、むしろ死亡率が下がるという調査結果も出ている。

 今回発表された論文では「低炭水化物ダイエットと、(今回の調査での)死亡原因の間に明確な相関関係があるか、生物学的には十分に説明されていない。そのメカニズムを明らかにするためのさらなる研究が望まれる」と結んでいる。

 前出の大学の医療研究事情に詳しい知人は今回の調査への印象をこう語った。

「そもそも寿命というのは、食生活を含めた環境因子に遺伝的要素も加わって決定されるもの。この論文の解析対象となったと思われる論文も炭水化物以外のデータの精度がまちまちです。今回の研究には厚労省の助成がついているので、最低でも論文を発表しなければならなかったのでしょう。また、今回の研究班の中心となったのは東大の研究チーム。低炭水化物ダイエットについては、東大の有力者の間でも見方がわかれている。この論文の歯切れの悪さは学内のパワーバランスが影響しているのではと邪推したくなってしまいます。そもそも、新聞の科学記事には残念な内容のものが多いんですよ」

 極端すぎる情報は鵜呑みにはできない。それは見出しも健康法も同じである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」とは
《「ととのった〜!」誕生秘話》『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン