3月29日、プロ野球が開幕した。ファンが楽しめる中継とはなにか。フリーライターの神田憲行氏が考える。
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今年も野球の季節が巡ってきた。野球ファンにとっては朝から高校野球、夜はプロ野球と1日野球漬けになれる至福の季節である。
そこでちょっと、主に民放地上波の野球中継にお願いしたいことがある。実況はもっとシンプルにしてもらえないだろうか。プロ野球はデータの面白さもあるので、得点圏打率や左右投手の相性、ストレート・変化球の配球の割合などを紹介するのはいい。
解説者が多すぎるのではないか。中継ブースに2人、1・3塁のベンチサイドリポーターと称してさらに2人いる。アナウンサーを含めて5人がのべつくまなく喋りまくる。
私が野球中継で「ベスト・ワン」だと思うのは、元朝日放送・植草貞夫アナウンサーと、元北陽高校監督・松岡英孝さんの組み合わせだった。植草さんは「白い雲、青い空」「甲子園は清原のためにあるのかぁぁ」といった名台詞で有名なスポーツ・アナだが、言葉の面白さだけでなく、中継の「試合運び」も絶妙だった。とくに松岡さんとのコンビは息もぴったりで、大変聞きやすかった。なぜ聞きやすいのか考えていて、思い当たることがあった。
たとえば9回表に1点差を追いかけているチームが四球で先頭打者を出すとする。植草さんが「○○高校、ノーアウトでランナー1塁!」という。こちらが「送りバントかなあ」と思った瞬間、松岡さんが「ここはね、送りバントだと決めつけてはいけません。○○監督、エンドランもあります」。なるほど、相手のバントシフトの裏をかいて、一気に逆転まで持っていく作戦もあるのか、と見ている側は思うわけである。
野球を見ながら中継と「対話」ができる。そこで肝心なのが、植草アナが「松岡さん、ここはどうですか」といちいち話を振らない点だ。話を振らなくても松岡さんが入るだけの信頼感が2人にあり、余計な言葉を挟まないからリズムも生まれる。
これが民放だと解説者が何人もいるから、中継アナがいちいち「○○さん、どうですか」と話を振らないといけない。ベンチサイドの解説者からは、自己アピールだろうか、中継アナを「○○さん、○○さん」と呼ぶときもある。これがとてもうるさい。まるで画面が言葉で埋まってしまう。
野球に限らず、サッカーでもバレーボールでも格闘技でも、中継の過剰さを厭うファンの声をよく聞く。「番組でなくスポーツを伝える」という原点に戻った、シンプルな、それでいてプロを感じさせる中継をお願いしたい。