ライフ

司馬遼太郎 資料収集で神保町古本屋街で資料本消滅伝説作る

 歴史小説家にとっては、「時代考証」などと大上段に構えなくても、それに類する意識や知識は、物語を描くうえで必須の素養である。では、日本人に大きな影響を与えた人気作家たちの場合はどうだったか。『時代考証学ことはじめ』などの著書がある編集プロダクション三猿舎代表・安田清人氏が解説する。

 * * *
 バブルの時代、歴史・時代小説の世界は大きな曲がり角を迎えていた。昭和の中期から平成にかけて、この分野の牽引車として馬車馬の如き活躍を見せていた人気作家、司馬遼太郎、池波正太郎、藤沢周平の三人がこの間に亡くなったのだ。

 それぞれ作風も、好んで取り上げる時代や対象も違ったが、なにしろこの三人の作品はよく売れた。そして現在も売れ続け、いくつもの作品が映像化されている。もしかすると、ある世代から下の日本人の歴史観のかなりの部分は、彼らの作品を「教科書」として形づくられているかもしれない。

 そして、三人とも歴史そのものについての造詣が深く、作中人物を取り巻く時代風俗や時代背景を描く際に、時代考証の視点から知り得たさまざまな知識を随所に織り交ぜることで、「それらしさ」というリアリティを持たせることができる手練れであった。

 司馬遼太郎は新たな作品に取り掛かるとき、あらかじめ膨大な資料収集をしたことで知られ、そのテーマについての資料本が神田神保町の古本屋街から消えるという「伝説」さえ残っている。

 いうまでもないことだが、彼らが作家として後世に残る名声を得たのは、「歴史に詳しい」とか「資料本をたくさん読んだ」作家だからではない。作品が優れた内容で、読んで面白いからだ。しかし、その「面白さ」の中身に分け入ってみると、史実や時代風俗に詳しいということが、作品に歴史の重みや実在の人物の真に迫る迫力を付与する効果をもたらしたのも間違いない。

 そして読者もまた、物語を楽しむだけでなく、そうした史実にまつわる微細なウンチクや、トリビア的な歴史知識を吸収し、自分の教養とすることに満足する傾向が、とくに司馬作品の読者に顕著にみられた。

■安田清人(やすだ・きよひと):1968年、福島県生まれ。月刊誌『歴史読本』編集者を経て、現在は編集プロダクション三猿舎代表。共著に『名家老とダメ家老』『世界の宗教 知れば知るほど』『時代考証学ことはじめ』など。BS11『歴史のもしも』の番組構成&司会を務めるなど、歴史に関わる仕事ならなんでもこなす。

※週刊ポスト2013年10月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
米国の大手法律事務所に勤務する小室圭氏
【突然の変節】小室圭さん、これまで拒んでいた記念撮影を「OKだよ」 日本人コミュニティーと距離を縮め始めた理由
女性セブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
公式X(旧Twitter)アカウントを開設した氷川きよし(インスタグラムより)
《再始動》事務所独立の氷川きよしが公式Xアカウントを開設 芸名は継続の裏で手放した「過去」
NEWSポストセブン
現役を引退した宇野昌磨、今年1月に現役引退した本田真凜(時事通信フォト)
《電撃引退のフィギュア宇野昌磨》本田真凜との結婚より優先した「2年後の人生設計」設立した個人事務所が定めた意外な方針
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン
中森明菜復活までの軌跡を辿る
【復活までの2392日】中森明菜の初代音楽ディレクターが語る『少女A』誕生秘話「彼女の歌で背筋に電流が走るのを感じた」
週刊ポスト
世紀の婚約発表会見は東京プリンスホテルで行われた
山口百恵さんが結婚時に意見を求めた“思い出の神社”が売りに出されていた、コロナ禍で参拝客激減 アン・ルイスの紹介でキャンディーズも解散前に相談
女性セブン
真美子夫人は「エリー・タハリ」のスーツを着用
大谷翔平、チャリティーイベントでのファッションが物議 オーバーサイズのスーツ着用で評価は散々、“ダサい”イメージ定着の危機
女性セブン
猛追するブチギレ男性店員を止める女性スタッフ
《逆カスハラ》「おい、表出ろ!」マクドナルド柏店のブチギレ男性店員はマネージャー「ヤバいのがいると言われていた」騒動の一部始終
NEWSポストセブン