ライフ

ピエリ守山訪問の70代夫婦「ネットでみて廃墟ツアーに来た」

 琵琶湖のほとり、滋賀県守山市にあるショッピングモール「ピエリ守山」は、開業時こそ約200店舗のテナントでにぎわっていたが、2013年11月4日現在で営業しているのはわずか4店舗。営業中にも関わらず廃墟のような雰囲気だと評判を呼び、いまや廃墟マニアの間では有名なスポットだ。そのピエリ守山を作家の山藤章一郎氏が訪ね、報告する。

 * * *
 滋賀県守山市、人口8万人──京都までJRで29分のベッドタウンである。かつては一面のヨシの原、琵琶湖のデルタ地帯だった。

 昭和39年に、〈琵琶湖大橋〉が架かり、湖岸道路、ホテル、リゾート施設が林立した。その一画に、Bリゾート施設ができた。つぶれた。びわ湖わんわん王国になった。つぶれた。商業複合施設〈ピエリ〉ができた。つぶれてはいない。つぶれかかっている。

 正式には〈琵琶湖クルージングモール〉という。対岸から船で買い物に来られるように〈ピエリ守山港〉という船着き場まである。

 田んぼ、高層リゾートマンション、琵琶湖大橋が取り巻く。湖の向こうに比良山系が薄青く連なる。東京ドームの1.7倍の総床面積。駐車場3060台。フードコート750席。200の専門店がひしめいていた。

 オープンした5年前、人々が殺到した。ここに向かってくる道路は数キロ先から渋滞し、駐車場に着くまで1時間以上を要した。やっと入れたが、フードコートでまた長い列を並ばなければならなかった。だが、隆盛は一気にしぼんだ。

 数キロ先に〈イオン〉〈三井アウトレットモール〉などができ、中軸店舗の〈スーパー・バロー〉が抜けたから。要因はそう取り沙汰されたが、いまは盛衰を振り返る人もいない。「まだやっとるん?」70代半ばの爺さん婆さんの夫婦連れが、駐車場を見渡している。「車、さっぱりおらんね」と爺さん。「がらがら空きね」と婆さん。

 脇から声をかけてみた。「初めてですか」

「いや、3年ほど前までは渋滞のなかをよう来ましたよ。今日はね、〈廃墟ツアー〉」
「廃墟ツアー?」
「ネットで騒がれて。どんなことになってるのか。久しぶりに」

 メインのB2ゲートのドアに向かう。「開くのか、開かんのか」爺さんが自動ドアに触れた。おもいがけず開いた。一緒に中に入る。

「ひっ」婆さんが息を呑んだ。「なにコレ」爺さんが声をあげた。

 左右のはるか先まで広大な空間がひろがっている。上下2層。通路中央には籐製の大きなソファがいくつも配されている。観葉植物もほうぼうで緑の葉を伸ばし、LEDライトが、磨きこまれた通路を冷え冷えと照らしている。BGMが耳を流れる。エスカレーターも動き、正面受付には案内の女性がひとり、廊下の要所にはガードマンが立つ。

 だが、ソファにも通路にもエスカレーターにも、右、左、上、下、どこを向いても人はいない。少しいる。爺さん婆さんである。

 駐車場から一緒になった婆さんが首を振る。「お父さん、あの人たちも見学ね。でもお店はどこ?」往時200あった店はことごとく消えた。10月末現在、6店舗。194店舗が、逃げだした。

※週刊ポスト2013年11月22日号

関連キーワード

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン