資源・食糧問題研究所の柴田明夫氏も南水北調は水不足の解決につながらないと指摘する。
「長江と黄河の流量は17倍もの開きがある。豊富な長江の水を黄河に運ぶことは中国の悲願で、古代にも京杭大運河が開削された。しかし、標高の低い南部から標高の高い北部に水を運ぶとなると、ポンプで汲み上げるなど膨大なエネルギーを必要とする。さらに、運ぶ間の蒸発や水質汚染に加え、東線では運河に海水が入り込むなどして生態系が破壊される恐れもある」
近年、長江の水量が減少し、もともと汚れた河川に海水が逆流して汚染が進んでいるという。汚れた水を送ることから、南水北調は“汚水北調”とも揶揄される。柴田氏は言う。
「中国政府は大掛かりな公共工事で供給を増やすことばかり考えているが、水資源問題の解決には、需要サイドの節水や有効利用、供給サイドの効率的なシステム、政策面での水資源確保という3方面からの対策が欠かせない。しかし中国では水管理が地方政府や役所の縦割り体質で分断されており、マクロ的なデータも政策もないのが実情で、解決にはほど遠い」
※SAPIO2014年1月号