ソウルで健康食品販売業を営んでいた30代男性は、事業が立ち行かず昨年春から農村部にある妻の実家に移り住んだ。日銭を稼ぐために工事現場で働き、妻は両親の農業を手伝い始めたが、収入はそれほど得られない。そんな中、2歳の次男が練炭で重度の火傷を負ってしまった。
手術を受けたが、思うように歩けないなど深刻な後遺障害が残った。完治させるにはレーザー治療が必要だが、保険適用外のため施術・入院費用として800万ウォン(約76万円)かかると言われており、半年以上経った現在もレーザー治療を受けられないでいる。
貧困ゆえ保険料を払えない世帯は増えている。健康保険料は収入に応じて変わるが、最低レベルの月1万ウォン(約950円)以下でさえ払えない滞納世帯は2013年で11万7000世帯にのぼる。この数字は年々増えており、2年間で27%も増加している。保険料から逆算すれば、彼らの月収は20万ウォン(約1万9000円)未満だ。
韓国北東部・江原道の農村地帯で地域医療を担う中規模病院の看護師はこう証言する。
「この地域では10万ウォン(約9500円)以下の医療費すら出せない患者が全体の2~3割に達している。入院患者が夜中にこっそり姿を消す事態も珍しくない。ある病院では昨年・一昨年の未払い医療費が6500万ウォン(約620万円)余りに達し、経営を圧迫している」
必要な医療が受けられない庶民が増えるばかりか、医療を提供する「場」さえ失われようとしている。
※SAPIO2014年3月号