「健診を行なう人間ドック学会と、臨床の高血圧学会や動脈硬化学会などでは、組織的にも医師個人にも発言力や研究費に大きな差があるのが現実です。臨床系の専門学会は製薬業界と密接なつながりがあるため、圧倒的な資金力がある」

 国内の人間ドック市場は現在、9000億円規模。それに対して、高血圧は治療薬だけで同等の9000億円。治療費などを合わせた高血圧性疾患の医療費総額は2兆円近くにも上る。

「高血圧は心臓疾患、腎臓疾患、糖尿病などの合併症を伴う。それらの治療薬まで合わせると途方もないカネが動く」(都内の内科医)

 高血圧だけでもそうなのだから、複数の専門学会を敵に回した人間ドック学会の苦境が窺えよう。『医者ムラの真実』の著書を持つ、榎木英介・近畿大学医学部病理学教室講師はいう。

「医療の学会は、それぞれの分野ごとの専門家集団であり、一種のギルドのようなものだと見るとわかりやすい。学会の会長は、医者というムラ社会のボス的な存在だといってもいい。

 学会の会員は学者が中心だが、それ以外に賛助会員がいます。製薬会社が賛助会員に名を連ね、発表会の費用を負担したり、ブースを出したりする。なぜなら、学会と製薬会社は同じ利害関係にあるから。血圧の最高値を引き上げれば、高血圧薬の使用量が減ることになるので死活問題。医師や病院にとっても、診察料や処方料などの治療費がなくなるため、同様に死活問題なんです」

 さらに泉孝英・京都大学名誉教授は、「基準値を厳しくすることで病気は“作られる”。年齢や性別による違いすら加味しない現行の基準に、科学的根拠はあるのか。本来はそこが問われるべき」と指摘する。

※週刊ポスト2014年5月30日号

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