人間ドック学会が4月に、血圧やコレステロール値、肥満度などについて行なった大規模調査にも基づき発表した健康診断の「新基準値」が、論争を呼んでいる。
例えば血圧の場合、これまでは上(収縮期血圧)が130以上、下(拡張期血圧)が85以上なら「血圧が高い」と診断されてきた。それが、今回の新基準値では大幅に緩和され、上は147まで、下は94までは正常値であるとされた。
最も従来の数値とかけ離れているのが、いわゆる「悪玉コレステロール」とされてきたLDLコレステロールだ。現基準では120未満が正常とされたが、新基準では男性の上限が178、高齢女性ではなんと190まで拡大された。
しかしここに来て人間ドック学会が「従来の基準を尊重すべきだ」とトーンダウンし始めたのだ。その背景には何があるのか。
「新基準値」の発表直後から、他の専門学会は相次いで反論の見解を発表した。
高血圧学会が4月14日、〈本当に「正常」といえるか不明であり(中略)一部には「要再検査、要治療」が含まれている〉との声明を出したのに続いて、動脈硬化学会は23日、〈人間ドック学会の「基準範囲」は日本国民の健康に悪影響を及ぼしかねない危険なもの〉という過激な表現で批判。「人間ドック学会はけしからん」という圧力が医療業界全体から押し寄せ、同学会は追い込まれた。東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所長はこういう。
「今回の基準値は欧米の基準とも非常に近く、信頼性の高いものでした。しかし、私は当初から人間ドック学会は発表を引き下げることになるのではないかと危惧していた。
過去にも、私たちの研究グループが2004年に全国の健診実施機関から集めた約70万人の健診結果を解析した基準値を発表しています。また翌年には、今回の学術委員長を務めた山門實・足利工業大学看護学部長も大規模調査によるコレステロール基準値を発表している。
しかし、いずれもその後、健康診断の基準に反映されることはなかった。他の学会からの強烈な批判に遭い、厚労省は臨床系の専門学会の影響を強く受けた基準を採用しました。このままでは、彼らが発表した数字はいったい何のために使うつもりだったのか、という話になってしまう」
とはいえ、同じ学会同士、堂々と科学的な議論をぶつけ合えばいいだけではないのか。大櫛氏は、そんな甘い話ではないという。